関数男物語〜灼熱のヒト04〜
怒涛の学期末を乗り越え、ようやくホッとひと息をつける夏休みを迎えた。夏休みといっても、教職員は休みになるわけではない。この期間にも研修や会議、職員作業などの予定がある。
幸いにも表計算小の教務主任である高木は、「夏休みは休むべきだ!」と提唱し、夏休み最初の一週間に会議などをできるだけ詰め込み、8月上旬からは年次休暇や夏季休暇を取得しやすい環境を整えてくれていた。
しかし、心置きなく夏休みを迎えるためには、終わらせなければならない業務が山積みになっていた。まず、時数管理である。文部科学省が示した標準時数に準じる形で年間の授業時数が設定されている。3学期制を採用している表計算小では、学期ごとに実施時数を報告することになっていた。
年度当初に標準時数を基にして学級ごとの固定の時間割を作成してはいるが、行事や校外学習などの兼ね合いで予定通りには進まない。そこで、週単位で微調整しながら実施していく。そして、月単位で実施時数を集計し、学期末に進捗状況を確認するという流れだ。
しかし、恐ろしいことに、この週予定と集計が連動していないのだ。週予定は、高木の作成したWordのテンプレートを使用していた。一方で、集計はExcelになっている。そのため、「7月第1週は、月曜日が国語、算数、理科、社会、道徳。火曜日が算数、体育…。」といった具合に予定を作成し、「国語は合計5時間、社会は3時間…。」というように集計シートに転記しなければならなかった。
「作業の重複が多すぎる…。」
数男は、めまいを覚えながら1学期分の時数集計を終えて、高木にシートを提出した。次に待っているのは、出席統計である。児童一人一人の出席状況を学級、学年単位で集計し、報告しなければならない。
こちらも非常に煩瑣で、学級担任は「出席簿」という冊子を管理する。この冊子は、一ヶ月ごとに在籍児童の名簿と1日から31日までの表になっていて、何月何日に誰が欠席したかを記入するようになっている。
欠席といっても、単純な病欠や家庭の事情による欠席、感染症などによる出席停止、忌引きなどを記号で区別していかなければならない。そして、月毎に誰が何日休んだのか、学級全体としての出席率はどれくらいだったのかといった数値を記入する。
こちらも当然のようにアナログである。「名簿1番の子は、今月、二日休んだ。」「2番の子は、三日。」というように記入された記号を数えて書き込む。そして、授業のあった日数を一人ずつ書き込んでいく。さらに、出席統計を求めなければならない。これは、出席数の合計÷授業日数×在籍児童数で求める。例えば、20人学級で授業日数が20日だったとする。その月、学級全体での欠席数は3日だったとしたら、397÷20×20で求めることになる。しかも、ややこしいことに、出席停止や忌引きの場合は、計算式が異なってくるのである。
かつて、数男は40人の学級を担任したことがあった。その際の地獄の苦しみのような出席統計に比べれば現在担任している学級は30人なので、少しは楽かなとも思いつつ、
「やはり、重複作業が多い。」
というのが、数男の率直な思いだった。そして、数男は、この「重複作業」を表計算小の校務デジタライゼーションを実現する上での最初の敵として見定めた。