職員室デジタライゼーション〜関 数男の着任〜
4月1日、間黒市ー
県の南東部に位置し、周囲を山に囲まれた盆地であり、4月になってもなお路肩には雪が残っていた。関数男は、まだスタッドレスタイヤを履いたままの愛車のエンジンをかけた。片道15分。向かう先は、間黒市立表計算小学校。今日から、数男が勤務する学校である。数男にとって、3校目の勤務校となる。
数男は、現在、28歳。小学校教員として、働き始めて7年目を迎えていた。学生時代の専攻は、国語科教育学。趣味は、音楽。中学生の頃に父親の影響でギターを始め、大学生の頃は、学業よりもバンド活動に重きを置いてしまい、あやうく留年しかけた。
ところが、その時に出会った「DTM(デスクトップミュージック)」の影響で、パソコンに触れる機会が多く、ある程度の知識や技能は有していた。それが、どういうわけか、初任校で「パソコンに強い関先生」という噂が独り歩きしてしまい、パソコン操作が不得手な職員からは、「困ったら関先生」と頼られるようになった。
元来、お人好しな関数男は、頼られると無碍に断れない。「Excelって…」「Wordで○○するには…」といった質問に答えていくうちに、いつの間にか、それなりにパソコン操作に長けた教員になってしまっていた。その結果、前任校では、校内のICT活用を推進する「情報教育主任」の立場を任されていた。
そして、これから赴任する表計算小学校でも、校長から情報教育主任をお願いしたいという打診があった。数男は、正直、戸惑っていた。自分の知識や技能が付け焼き刃であることを自覚していたからだ。確かに小学校というある種限定された状況であれば、数男程度の知識・技能でもWordやExcelを使いこなしている印象を与えるかもしれない。さらに、限定された状況においても、より専門的な知識・技能を有している職員は多数いることを知っていたからだ。
「それなのに、自分が情報教育主任か…。」
数男は、嘆息してアクセルを踏み込んだ。4月だというのに、重くのしかかる雲が、まるで、自分自身のこの先を暗喩しているような気がしてならなかった。
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