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関数男物語〜その手で変えてごらん03〜

 二つのカレンダーを並べて表示した数男が悦に浸っていると、職員室の電話がなった。「もしもし、表計算小学校、教頭の佐々木です。」と教頭が電話に出る。佐々木教頭は、50代初頭の女性である。温和な人柄で、常日頃から職員の相談に乗るとともに、トラブルがあった時には率先して動く行動力も持ち合わせていた。そんな佐々木の表情が一瞬にして曇った。そして、電話の子機をもって校長室へと駆け込んだ。

 おそらく、良くないことが起こっているー

 職員室にいたメンバーは、なんとなくその雰囲気を感じ取っていた。終業時刻が迫っていたが、数男もどことなく帰るのが憚れるような気がしてしまっていた。

「ごめんなさい、勤務終了時刻間際ですが、ちょっとだけ集まってください。」

 校長室から出てきた、佐々木が心痛な面持ちで声をかけた。

「実は、先ほど、渡辺先生が交通事故に遭われて、緊急入院することになってしまったのです。幸いなことに命に別状はありません。」

 集められた職員に佐々木が説明する。渡辺健二は、数男と年齢の近い男性職員で、三年生を担任している。同じ体育部のメンバーとして運動会の準備を行なっている教員だ。たしか、今日は、午後から休みをとっていたはずだ。
 その渡辺が、車の運転中に追突事故に巻き込まれてしまったらしい。幸いなことに命に別状はないそうだが、右足を骨折してしまい、緊急手術を受けることになったらしい。

「私と校長先生は、これから病院に向かいます。皆さんも、十分に気をつけて帰宅してください。入院期間など詳しいことがわかり次第、今後の対応をお伝えしますので、明日の朝、臨時の職員打ち合わせをお願いします。」

 と告げると、佐々木教頭は病院へと駆け出した。残された職員たちは、渡辺の身を案じるとともに、明日以降のことについて、あれこれと話をしていた。
 口さがない職員などは、「何をしていて事故にあったのか?」などと余計な事まで話題にしていたが、詳細がわからない以上、何も断定することはできない。そして、入院期間などが分からない以上、明日以降の対応も断定することはできない。にもかかわらず、話題にせずにはいられないのは、人の性なのかもしれない。数男がそんなことを考えていると、教務主任の高木誠一が口を開いた。

「とにかく、詳細が分かるまで断定するのはやめましょう。明日以降のことは、詳細が分かり次第、僕と管理職とで対応を考えます。」

 高木誠一は、50代の男性。佐々木教頭以上にフットワークの軽い職員で、職員からの信頼も厚かった。その高木の一言で、職員は渡辺の件に一旦蓋をしてそれぞれの校務に取り掛かった。

 渡辺の身を案じながら、数男は帰りの支度を始めた。そして、「お疲れ様でした。」と声をかけ、帰宅しようとしたところ、高木が数男に駆け寄ってきた。

「明日、ちょっと話をする時間を作ってくれ。運動会の件もあるから。」

 高木の言いたいことが何となくわかった数男は、「わかりました。」と言って職員室を後にした。

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