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職員室デジタライゼーション〜関 数男の悲劇①〜

「何かがおかしい。」

 数男がそう感じたのは、職員室の自席に着いた時だった。校長室で、異動してきた職員同士で談笑し、時間が来たので、校長の先導の元、職員室へ入った。簡単な自己紹介を済ませ、一緒に学年を組む教員から自席へと案内された。

 机の上には、ノートPCと、セットアップのためのマニュアル。赴任時に必要な手続きを申請するための書類。そして、恐ろしく分厚いリングファイル。

 「なんだ、このリングファイル?」と思いながら、恐る恐るページをめくってみる。すると、「○○全体計画」「△△実施計画(案)」といったページが目に飛び込んできた。
 「これは、教育計画ですか?」動揺を隠せずに、数男は、思わず隣の田中明子に質問してみた。すると、明子は「そうよ。びっくりするでしょう。」 と苦笑まじりに答えた。明子は、関と同じ6年生を担任する学年主任で、30代の女性である。彼女は、苦笑いしながら「うちの学校、前年度中にほとんどの行事や計画を決めちゃうのよ。」と呟いた。郷に入っては郷に従え、数男は、突きつけられた現実をなんとか受け入れようとしつつ、自身のノートPCの設定を行うことにした。

 職員会議で提案される様々な事項や授業で使う教材などを作成するにも、数男にとって、PCは心強い相棒であった。Windowsを立ち上げると、自治体から付与されたユーザーIDと初期設定のパスワードを打ち込む。
 数男は、PCを立ち上げ、校内サーバーにアクセスする。赴任早々ではあるが、ある行事の起案をしなければならない。それは、「運動会」である。稲作大国であるこの県では、春に運動会を行う学校が多い。数男は、情報教育主任とともに、体育主任の役目も任されていた。5月に運動会を行うためには、4月当初の会議で議題に上げなければならない。
 明子の話を聞く限り、前年度中に行事の計画を立てられている。しかし、分厚いリングファイルの中から、どうにかこうにか見つけ出した「運動会実施計画」には、「担当:4年生担任」とか「担当:音楽主任」といった具合に漠然とした内容しか記述されていない。 

「これは、大変だ…。」

数男は、誰にともなく呟いた。

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