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軽度難聴の異世界

ぼくは、軽度の難聴です。
かるーく、いつも雑音がしてます。

耳鳴りは、誰もが一度は体験してるんじゃないでしょうか。
突然、大きな音がしたときに残る妙な音がする、それです。
 
フツーは、みーんとか、きーんとか。
そんな音がして、しばらくすると、なくなります。

でもぼくの耳鳴りは、これ↓

ぐがああああああああああああああああ――ん!!!

いつまでたってもなくなりません。
しかもこれがベースなので、より強い音を聴いた後は、さらに酷くなります。

でもまあ、雑音がしてるだけなら、いいんです。
耳鳴りくらい、それほど困ることはありません。

五月蠅くていつも寝不足だとか、ラジオやテレビが楽しめないとか。
そんな、ささいなことが24時間365日。続くだけのことです。

名付けて「ルードウィヒ症候群」。ひとりで笑ってます。
ルードウィヒは、ベートーベンのことです。

でもひとつ、ちょっとした問題があります。
普段の会話に困ることです。

「 あれ、どこにしまったっけ? 」

それが、

「 晴れ、そおにいいましあっ? 」

と聞こえる。

なんのこっちゃわからない。
わからないけど、「晴れ」とあるから、空の話と推測する。
だからこう答える。

「 天気が気になるなら、アプリで調べたら? 」

相手は「はぁ? 誰がそんなこと言った?」 と怒るんです。
理不尽ですよね。

ある朝、妻がいいました。

「 おは、ほしくえきはお 」

おはだから、あはようナントカってことだと推測。
だから、おはようと答えた。すると怒る。

「 ごはん、おいしくできたよ 」

と言ったらしい。
冗談のような会話です。

これだって、何度も聞き返し、ようやく聞き取れたんですよ。
刑事の取り調べにも匹敵する「聞き出し能力」をほめてもらいたくらいです。

もっとも、耳鳴りがなければ、聞き出す必要がない。
耳鳴りのおかげで、知られざる能力が開花したと喜んでます。

ところで難聴とはなんでしょうか。ぐーぐる先生で調べて見ました。

難聴といってましたが、正しくは聴覚障害とのこと。
聞こえにくくなる障害ってことのようです。

聴覚障害には、先天性と、後天性があります。
生まれる前から聞こえないのが先天性で、
生まれてから様々な理由で聞こえなくなるのが後天性です。

聴覚障がいは、聴覚組織のどこに起こっているかによって、3種類に分けられます。

「伝音性難聴」は、外耳~中耳が原因。
「感音性難聴」は、内耳~聴神経や、脳の障がいによるもの。
「混合性難聴」は、伝音性と感音性、両方の原因が混じってるもの。

齢とって聞こえが悪くなる「老人性難聴」の多くは、感音性難聴の一種。

どうちがうのでしょう。
聞こえにくいって意味では一緒ですが、本人の聞こえ方が異なってます。

伝音性難聴
 音の伝わり方が十分ではないけど、補聴器などで普通に会話できることが多い。

感音性難聴
 脳の判断で、音が歪んだり響いたりする。
 単に音を大きくするだけでは聞き間違いが多くなり、「言葉」として伝わりにくい。

聴覚障がい者の「程度等級」はこうなってます(正常から中度まで)

・正常 普段の会話に問題ない範囲
   0dB 健聴者が聴き取れる最も小さい音
  10dB 雪の降る音
  20dB 寝息
・軽度難聴 小さな音は聞こえにくい(25dB~)
  30dB 紙に鉛筆で文字を書く音
  40dB 静かな会話
・中度難聴  普段の会話が聞こえにくい(40dB~)
  50dB 家庭用エアコンの室外機の前くらい
  60dB 普通の話し声

聴力低下の程度によって「程度等級」が決められてます。身体障害者手帳が交付されるヤツですね。1から6級があって、数字が少なくなるほど障害は重くなります。

6級は両耳が70dB(騒々しい事務所の室内程度)以上。
「騒々しい事務所の室内程度」で言ってもらわないと会話にならないのですから、
仕事も生活も厳しそうです。

以上のことをぼくの耳に当てはめて、軽度感音性難聴。
軽度の、感音性、難聴。です。

かるめの、音を感じにくい、難聴。
文字を分解するとたいしたことない、わけです。

一定以下の音が聞こえない。会話が聞きにくい。
具体的には、子音が聞き取れりにくい耳です。

か行、た行は、まぁまぁ聞き取れます。
弱いのは、「さ行」「な行」「は行」「ま行」

あいうえお、母音は完璧に聞き取れてます!
はっはっは。

偉大な作曲家ベートーベンは、笑ってるられなかったでしょうが。

困ったことはひとつといいましたが、じつはもうひとつありました。

耳の雑音て、現実感をシャットアウトするって知ってました?
場所の実感て、音で感じる部分が大きいって思うんです。

目はつぶれば見えなくなる、鼻をつまめば匂いがしない。
触らなければ触感はないし、飲み食べしなきゃ味はない。

これらはどれも、自発的に停止することができるものです。

耳だけは閉じられない。
手でふさぐことはできますよ。
でもその場合は、貝殻をあてたような海鳴りがします。
無音じゃないんです。

で、聞こえる音は、居場所の感じかたに大きな影響を与えます。
カフェ、公園、港、自室、教室、屋上……。
その場その場に似つかわしい音がするから、そこに”いる”実感が湧いてきます。

耳鳴りはその実感を邪魔します。どこにいても海鳴りがします。
カフェの音のうち、たとえば、30%くらいが、海の音でさえぎられる。

30%ぶん、海にいるって実感できるかというと、そんなことはありません。
空白になるんです。30%ぶん、そこに”いる”実感が足りなくなる。

足りない実感は、別のものによって埋まります。
なにか?
自分の思考です。思考が反射して、実感不足を埋めてきます。

思考の中身はひとによって違うでしょう。
そもそも、不足分を思考が補うのは、ぼくだけかもれません。

ぼくは、アニメやウェブ小説好きです。
自分でも、ヘタな小説を書いたります。
いつでも心の中に、異世界をもってます。その異世界が反射する。

どこにいても30%異世界。
それが、軽度難聴をもつ、ぼくの世界です。

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