給料の2倍
新年早々、きみを泣かせてしまった。
しかも、楽しく「人生ゲーム」をやっていた最中に。
きみの白い車(コマ)が止まったマスに書かれてあったイベントは「婚約指輪を買う。給料の2倍をはらう。」だった。
その時のきみの職業は「美容師」で、給料は「$20,000」。
だから、ボクが「はい、じゃあ$40,000ね」ってパッと言えば何の問題もなくゲームは進んだんだと思う。
でもボクはそれをしなかった。
ちょっとだけ計算が苦手なきみの計算の勉強になるかなって思ったから。
そんなきみに「さぁ、いくらはらえばいいかな?」って聴いた。
するときみはしばらく考え込んでしまった。
さっきまで楽しそうに笑ってたきみの顔がどんどん曇ってきてしまった。
考える機会を奪わないように優しく見守っていたつもりだったけど、きみにとってはつらい時間だったんだね。
どんどん目にたまっていく泪を一生懸命我慢しながら次々といろんな答えを言ったのは、とにかくそのつらい時間を早く終わらせたかったからなのかもしれない。
そんなきみの気持ちを知ろうともせず、当てずっぽうで答えているように見えたボクは「答えじゃなくて、どんな式にしたのか教えて」って何度も言ってしまった。
我慢しきれなくなった泪がきみの頬を流れ始めたのを見て、ボクは何をやっているんだろうと情けない気持ちでいっぱいになった。
「おおーっ、給料の2倍って書いてるね」
「美容師の給料っていくらなの?」
「2倍って分かる?」
「それを計算式にしたらどうなりそう?」
「どう、自分で計算してみる?」
「今どこで困ってる?」
「ボクにどうしてほしい?」
どうしてきみのことをちゃんと見ながらこんなふうに聴けなかったんだろうって、申し訳ない気持ちにもなった。
きみが寝る前「人生ゲーム、楽しかったね。明日もできるかな?」って言ってくれた。ボクは「楽しかったけど、きみを泣かせちゃったことが今も心に引っかかってるよ」と言った。
するときみはこう言った。
「泣いちゃってごめんね。分からないことが悔しくて泣いちゃっただけだから、泣かせちゃったなんて思わなくていいからね。」
本心なのか気遣いなのか分からないけど、きみのその言葉にちょっとだけ救われたような気がするよ。
また人生ゲームしようね、今度は最後まできみの笑顔を見続けたいな。