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久保凛選手についての考察
陸上中距離の久保凛選手(東大阪大敬愛高2年)が7月に日本記録を樹立した際にnoteしようと書き留めたものの、ずるずると月日が流れてしまった。公開できずにいたが、最近の記録を追記し一部公開しようと思う。
当時、200、400、800、1万メートルなど2分の1の距離も五輪などチャンピオンシップ競技会で採用されている種目について書こうと思っていたが今回、その部分は割愛する。
(この辺は↓当時のテキストです)
16歳、高校2年生の久保凛選手が7月15日、陸上競技の女子800メートルで日本新記録を樹立した。記録は1分59秒93。2分の壁を突き破った。
【久保凛の800m2024年前期】
2分05秒13 3月29日 奈良市記録会 1位
2分05秒35 4月13日 金栗記念 優勝
2分03秒57 5月3日 静岡国際 優勝
2分05秒11 5月12日 木南記念 優勝
2分13秒18 5月25日 高校総体大阪府大会(予選1組1着) 400通過63秒(69)
2分11秒93 5月26日 高校総体大阪府大会(準決勝1組1着) 400通過62秒(69)
2分05秒93 5月26日 高校総体大阪府大会決勝(優勝) 400通過59秒(66)
2分12秒15 6月15日 高校総体近畿大会(予選1組1着) 400通過64秒(67)
2分08秒93 6月15日 高校総体近畿大会(準決勝2組1着) 400通過62秒(66)
2分03秒50 6月16日 高校総体近畿大会決勝(優勝) 400通過60秒(63)
U18日本新、大会新
※府大会は準決と決勝が同じ日、近畿大会は予選と準決が同じ日。2日間で3本。
2分03秒60 6月29日 日本選手権(予選3組1着) 400通過61秒(62) 卜部、田中同組
2分03秒13 6月30日 日本選手権決勝(優勝) 400通過61秒+α(61)
U18日本新
1分59秒93 7月15日 長距離強化記録会奈良橿原 400通過57秒?(62)
(ここから最近の追記)
【久保凛の800m2024年後期】
2分07秒73 7月30日 全国高校総体(予選1組1着) 400通過62秒(64)
2分06秒96 7月30日 全国高校総体(準決勝2組1着) 400通過60秒(65)
2分00秒81 7月31日 全国高校総体決勝(優勝) 400通過59秒(60) 大会記録
2分04秒53 8月27日 U20世界選手権(予選1組1着)
2分03秒00 8月29日 U20世界選手権(準決勝1組1着)
2分03秒31 8月30日 U20世界選手権決勝(6位入賞)
2分01秒25 9月29日 ヨギボアスレチックスチャレンジカップ 優勝 400通過58秒?
【久保凛・パストシーズン主なタイトル】
全国中学陸上 女子800メートル2分9秒96優勝
全国高校総体 陸上女子800メートル2分6秒41優勝(準決勝では2分6秒23)
【2ラップス:2周】
陸上競技の国際規格のトラックは1周400メートル。800メートルはトラックを2周する。
(最初の約100メートルはセパレートコースとなるためアウトレーンから出る選手など必ずしも決勝線から出ていくわけではない)。
静止しているところから動き出す1周目と中間点からフィニッシュまでの2周目。どちらが要するタイムが少ないか。
人が最大出力に近い運動を継続できる時間は1分に満たないと考えられており、(1周目を全速力で走っていない場合を除き、あるいは全速力で走っていなくても)疲労が蓄積されるなどして概ね2周目は減速する傾向があるのではないか。
ラストスパートの応酬などで最後はペースが上がるのではないかというイメージも描かれがちだが、一時的なペースの回復・変化はあっても1周単位では総じて2周目の方が遅くなると考えている。だからこそ戦略戦術として2周目を早くすることに価値がでてくるのだが、お釣りなく、800メートルを均して走る場合は限りなくイーブンに近づける、2周目が若干おちるというのが自然なのではないか。
イーブンペースに近づけて展開するレースの場合、2周目は5%ほど減速するという仮説のもとに考えると、2分を切りたい場合、1周目58秒、2周目60秒。これで1分58秒から1分59秒XXになるのではないか。
(余談)
7月のnoteは、一般的に減速する2周目を反転させるネガティブスプリットについて考察したいと考え書き始めたものだった。
(余談)
陸上の種目分類は400mまでが短距離、3000m以上が長距離、その間が中距離とされている。無酸素運動が短距離、酸素を摂取しながら走るのが中長距離ということだろう。ダッシュは短距離、中長距離はランという概念もあるらしく、800m走はダッシュと表現されることもあるらしい。また早稲田の競走部は800までが短距離だという話を聞いたことがある。
【加速走(助走あり)での400ベストタイム】
2周目のタイムを左右する要素は1周目の走り方に加えて、400メートルをMAXで走り切るときの選手個々の持つ絶対的なスピード、トラック1周を早く回ってくる能力にも関係してくる。助走をつけた400メートル走で仮に53秒を要する選手であれば、どんなに余力があっても最後の1周で53秒を切ってまとめあげることはできないはずだ。
一方で400メートルでのタイムが早い、400メートル走を得意としている選手の場合、2周目の減速率が大きくなる傾向が見られる。55秒で入っても2周目で20%の減速となった場合、1周目終了時点では3秒遅れていた減速率5%以内の選手に逆転を許してしまうことになる。
1500を得意としている選手がセパレートからオープンに変わったときには集団の後方、あるいは集団から遅れていても、3・4コーナーを最短で周りホームストレートの直線で好位置に上がり最終的には逆転するというのが減速率の小さい選手が勝つ典型的パターン。田中希実選手が序盤、遅れていても残り1周の鐘を合図にスイッチを入れ押し切るというのがこれにあたる。日本選手権でいえば2019年と21年に優勝した卜部蘭選手もそうだろう。1500や1マイルが本業とみられていたセバスチャン・コーがオリンピックでは800メートルで金メダルを獲得したのもこのパターンだったと考えている。
対照的だったのが2022年の日本選手権女子800メートル。当時、前年の東京五輪女子1500メートルで入賞した田中希実選手が大本命だったが、早いラップを刻める塩見綾乃選手は序盤で大きくリード、減速しながらも田中選手たちが追いついてくる前にフィニッシュラインに駆け込んだのだ。
さらに例外的なのが400mを早く走れるのに、いや早く走れるからこそ、ゆったり1周目を回る選手。400メートルのベストタイムが他の選手より3秒以上早く、しかも1周走ったあとでもそのベストタイムに近い走りができるのなら、1周目は無理せず、実質2周目だけで勝負にかたをつけるという選択肢もある。シファン・ハッサンを想像してもらえばわかりやすい。優勝タイムが1分54秒想定で、2周目を52秒で走れる確証があるのであれば1周目は60秒でいいのだ。
【久保選手の2周目】
久保選手のレースパターンは競馬の脚質表現を借りるなら、「逃げ」「先行」。自ら先頭(または先頭に近いポジション)で走り、最後まで粘り切るといったスタイル。
1周目がどんなペースでも2周目は大体61秒から63秒で走っている印象だ。
56秒で入ってもこれまで同様2周目62秒で回ってこられるようにする。
1周目を60秒で走り、ラスト1周を54秒に近づけて回ってくることができるようにする。
この両方ができるようになれば世界と戦う可能性はさらに広がる。