すいか #4
すいかの最終回です。
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健太はいつもより早く目覚めた。めったに聞くことのない鳥のさえずりが新鮮だった。階下の物音に押され、健太は階段を降りキッチンへ向かった。寝ぼけた目で立っている健太を見た母は、驚きを隠せなかったが、おはよう、と言った。
健太も、おはよう、と返した。
新しい朝の陽を浴びる家を背にして、健太は、いつもより低い太陽を浴びながら学校へ向かった。
始業を待つ教室は喧騒に溢れていた。健太はいつものように、飛び交う会話の間をぬって、席に着いた。何人かの生徒が健太に気付いた。
「中島、今日は早いじゃん」
と生徒の一人が興味深そうに話しかけた。
始業のチャイムが鳴っても喧騒は続いた。教室の喧騒は高田がドアを開ける音でも収まらず、高田の、席に着け、という疾呼まで続けられた。
生徒たちは授業の始まりを予感し、気だるい足取りでそれぞれの席に着いた。早くも淀んだ空気が立ち込めた。
高田は、健太が座っているのに気付いた。
「珍しいこともあるもんだ。中島、今日は早いじゃないか」
と高田が言った。
高田の言葉で生徒の視線が健太に向けられた。
恥ずかしさの中に僅かな誇らしさを覚えた。
健太の心は笑みを持ち、次の言葉を期待した。しかし、高田の口から出たのは冷然とした言葉だった。
「バカが教室にいてもなぁ…」
高田の呟きは、はっきりと健太の耳に届いた。
その瞬間、健太は形容を超えた表情をした。
決して見たことのない顔で健太は高田を凝視した。健太の怒りは教室の雰囲気を一変させるほどの力を持っていた。支配された教室の中にいる生徒の憤然とした視線が高田に集まった。健太は初めて高田以外、この空間にいるもの全てと一体になった感覚を得た。それは他の生徒も一緒だった。
健太は、立ち上がった。
高田は、事態に気付き歩を一歩後ろに進め、明らかに畏怖した表情でごめん、ごめん、と慌てて付け加えた。
健太の怒りは制御を超えていた。高田に向かって走り出した。机がぶつかる痛みさえ感じなかった。健太がぶつかった机は音を立てて倒れた。
教室のいたるところから、やめろ、という叫びが上がったが。健太の右手に、強い力が込められた。
とっさに教室の一番前に座る茂木が健太に体当たりをした。骨と骨のぶつかる音が教室に谺した。健太は横から強く押されて床に倒れた。ナイフが床を転々と転がった。教室は未だに危機をおぼえるものと、健太の姿を見て、安堵をおぼえるものが混在していた。
教室に静寂が訪れ、全てが空間を理解した。雲を退けた太陽が教室に強い陽を与え、教室に吹き込む風が過去をさらっていった。
高田は健太に何かを語るべく歩みを進めた。
-完-
「すいか」を最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。
しっかりとした文章が書けるように、精進を続けていきます。
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