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名古屋出入国在留管理局被収容者(30歳代、女性、スリランカ国籍)「A氏」のついた嘘は死に値するものだったのか

入管庁が公表した報道資料「名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告について」を読んで思ったのは、要素が複数あるから初見では整理しきれないよなあ、ということでした。
ぱっと思いつくだけでも「支援者との物語」「病の記録」「DV被害者としての扱い」「組織としての入管の致命的な欠陥」など、ジャーナリズムが頑張って解説すべき要素は盛りだくさん。
一例として、支援団体が途中でもう入管には資料提供しません。ってなった経緯。

調査チームはS1氏(引用者注:日本人の支援者の報告書における仮称)からの聴取を複数回実施し、その際に支援者らとA氏の面会状況等に関する資料等の提出も受けたが令和3年6月22日、S1氏から以降の調査チームの調査への協力や提出済みの資料の報告書への添付・引用は全て断るとの申出がされた

これは下記あたりと関連してる?

それはそうと、私が当初から危ぶんでいるのは「A氏」の物語をエモい方角からとりあげてしまう傾向です。実際ニューヨークタイムズにも5月時点で指摘されていることですが

コーカソイドなら暴力をふるったり、ネグレクトの末に亡くなるような事態には至らなかったのでは/若くハッとさせられる外見の女性ではない、おじさんなら今回ここまで国民の声は大きくならなかったのでは。
その指摘はあたらないとはいえないのは、現に

こういう話とか、そこまで知られていないままですよね。
やっぱり本件(少なくないひとたちが「鼻から牛乳」ってフレーズに反応しているところからしても)「A氏」をなんらかの偶像化することで成立している気がするんです。

先に結論から書くと、「A氏」はいろんな嘘をついていたようです。
もうちょっと穏当な言い回しにするなら「嘘をついているだろう、と糾弾されそうな発言が公的な文書に複数、掲載されてしまっている」。
仮にそれらがすべて「嘘」だったとしましょうよ。
それは生命を引き換えにしなければならないほど大きな罪だったのでしょうか。決してそんなことはない--が、私個人のスタンスです。
以下は、そんな私が気付いた「収容までの経緯におけるA氏がついた嘘(って言われそうな事柄)」をまとめたもので、なにせ入管庁の原文PDFを読めば書いてあることなので、遅かれ早かれ、A氏を非難する声があがると思うんです。
そうなったとき、A氏が気の毒だ、入管は恥を知れ。
みたいな感情論だけに立脚していては「弱い」と思うので、自分の理論武装のためにまとめた次第。
(変な使われ方をされるのはイヤなので、本記事途中にペイウォールを設置しました。入管庁の原文PDFを読めば書いてあることしか書いてないから、100円払って文句言うぐらいなら自分で原文を読むのよ!)

■聖人じゃないことは罪ですか?

ちょいちょいA氏もB氏(A氏の恋人、後述)も発言に嘘が入ってくるんですよね。とある傾向のひとたちがPDF読んだら言いそうなこと;
・そもそも留学目的で来日したはずが変な男に騙されただけ
・男にひどい目にあっていたのはたぶん本当だけど自業自得
・嘘ついて在留しようとして、帰国させられそうになったから逃亡って最初からそのつもりだったんだろ
・帰国したいと言ってみたり在留希望すると言ってみたり信用できない

繰り返しになるようですが、私は過剰にA氏の人生に同情する必要はないと思う者ですが、ただ、どんなひとでも(いいか、国籍はもとより在留資格がなんであれ、どんなひとでも、だ)公的な施設において命を奪われるようなことがあって良いとは思えないのです。
だからこそ、本件の主題はA氏という個ではなく、入管というシステムであるべきだし、責めを負うのも看守という個ではなく、入管というシステムであるべき。そう思っているのです。

■2017年6月-2018年4月(日本語学校留学生の時代)

A氏、スリランカから入国。在留資格は「留学」。
千葉県内の日本語学校に通うものとして、1年3カ月の入国許可を得る。1年分の授業料を前納。
2017年12月頃、アルバイト先で知り合ったスリランカ人男性(以下「B氏」)と交際開始。
2018年1月までは月1日程度しか授業を欠席することはなかったが、2月から4月までの間は登校日のうち3分の1から半分程度を欠席。
ゴールデンウィーク以降は学校からの電話連絡にも応じず、実質的な自主退学。B氏によると「自分もA氏も複数のアルバイトをかけ持ちしていたのでA氏はその疲れで学校を休みがちだった」。

■2018年9月(難民申請の時代)

在留期限8日前に難民認定申請。10月、「特定活動」への在留資格変更が許可される(審査待ちの2カ月間、ただし就労不可)。
10月下旬の聴取においてA氏が述べた申請理由は次の通り。
「スリランカ本国において恋人のB氏がスリランカの地下組織の関係者とトラブルになった。同組織の集団が家に来てB氏の居場所を教えなければ殺害すると脅迫され暴力を受けた。危険を感じB氏は2017年4月、私はその3か月後に来日した。帰国したらB氏と一緒に殺される」。

※なおこの内容が虚偽であることは後日B氏も認めている。また、この頃から静岡県内の弁当工場で働いており、雇用先は「留学」の在留資格で適法に就労しているものと認識していた。偽造在留カードをA氏B氏とも所持していた由。

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