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ホームレス差別発言に上書かれてしまった非正規滞在外国人の死

差別発言者が自説を開陳できるのは、同じ思いを抱くひとが少なからず居る、と信じているからですよね。

「ホームレスなんて、あれは結局働きたくない、サボってる連中だろ? 取材して意味あるのか?」

某ライターがよく耳にする発言として今朝、目に入ってきたやつ。
わー、言いそう。誰がとかじゃなくて、そういうこと言いそうなひとが。

その伝でいくと、スリランカからやって来て、正規滞在の枠を超え、日本に居たせいで悲劇的な最期を迎えることになった享年33の女性、彼女の死に向けられる声。

帰国しないからでは?
入管法改正を潰しておいて何を言ってるんだ
難民申請を簡単にしたら国が乗っ取られる

いろんなものを非表示にしているので意外にそういうテンプレートが目に入らなくなってるな、と遅まきながら自覚した私ですが、そういうひとたちを説得できると思うほど心が広くないので、以下、私が内心どう反応しているか。を記すことで、なにかの・誰かの参考になればと思います。

■なぜ帰国しないのか

まさか殺されるとは思ってないから。
それ以外の答えが必要ですかね? ウィシュマさんという個人以外で「帰国しない」ひとたち、それぞれに相応の理由があるから、って話もせっかくだから具体的に挙げておきますか。
たとえば今年6月のニュース。

非正規在留の両親のもとに生まれた子どもが「おまえの国に帰れ」って言われても日本が故郷なんですけど。(このニュースに関連して書いた私のnoteはここ)

去年10月の記事。

もともと予定していた期間が来る前に、急に「もう帰れ」って言われましても。(私のnote)

もうひとつ、今年2月のニュース。全国紙レベルにひろがらないまま有耶無耶になってしまったので私のnoteを直接引きます。

正規の在留資格を持っている親子が、ただ見た目が異なるだけで「帰れ」って言われる美しい国。
なにしろ、よく言われることながら、だいたいの人は退去命令が出たら帰国するんです。それがあまりに普通なので、ニュースにならない。
一方で、退去命令が出ても帰国しない人には既に日本に生活基盤があるなどの個別の理由があって、むろん何人かにひとりは悪質なケースもあるんでしょうけど、えーと、ウィシュマさんの話に戻すか。
なぜ彼女は帰国しなかったか。
・帰国するにも飛行機代のもちあわせがなかった
・そもそもコロナで飛行機とんでない
・DV受けていた元カレからの脅迫「スリランカに帰ったらおまえとお前の家族に報いを受けさせるからな」
・まさか、よりによって、公的機関である出入国在留管理局の収容施設において、死に至るまで放置されるとは思っていなかった
この辺は、入管の「名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告について」という文書に書いてあります(原文)。

■入管法改正について復習しよう

この「入管法改正を潰したくせに」系非難がけっこうな数、目に入ってくるのですが、つまり「改正案=良いもの」という認知がある。

当事者もそう喧伝しているから真に受けちゃうのは仕方ないんですけど、「入管法改正案の修正案」っていうものがありましてね。

当時の私のnoteから転載しますけど

■立憲民主党が提示した入管法改正案の修正案概要
(1)難民認定手続き中の送還停止規定の適用外となる「3回目以降の申請」を削除
(2)送還妨害行為などに対する退去命令に違反した場合の罰則の削除
(3)「監理人」の監督のもと収容施設外で生活できる「監理措置」の基準明確化
(4)監理措置期間中を通じた就労許可
(5)監理措置対象者の生活状況などについて監理人に課せられている届け出義務などの削除
(6)施設収容にあたり司法審査の導入
(7)施設収容期間に上限の設定
(8)一時的に収容を解く仮放免の基準明確化
(9)本来なら強制送還となる外国人に対し、法相が特別に在留を許可する基準の明確化
(10)難民ではないが、難民に準じて保護すべき外国人と認める基準の明確化

この10項目のうち6項目までは合意できた。
残り4項目は私の推理では(3)(8)(9)(10)で、つまり「基準明確化」ってところ。
入管行政の最大の問題は、今回の名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告にも現れている通り、内部のことは内部でやりますんで。
って外部の目を頑なに拒むところに本質があります。
「改正案」をおためごかしでしかない、と私が断ずるのは、その根本を変える気なんかないからー。って舐めたことを言ってきてるのに気付かないとでも? という憤りがあるからなんですよ。

2019年6月のニュースを10月になって入管が公表した際の報道。

仮放免を認めなかった理由については、窃盗事件が「組織的で悪質だった」と説明したが、事件内容は公表していない

詳しくはこのあたりも参照するといいです。

■オリンピックと難民認定率、仮放免許可申請率の関係

とくに難民認定率の低さでは世界で定評ある本邦ですが、あきらかに2020年がメルクマールとなっていたことは現場のひとたちが口にしていることで。

実は以前は入管も事実上、就労を黙認していました。働かなければ生きていけないのは入管も分かっていたからです。しかし、この数年間に進められた『厳格化』で、今では仮放免の条件として就労禁止が明記されています。人間性を無視した変更だと思います

この話、ご丁寧に「不法就労等外国人対策の推進(改訂)」という公文書に

このような中,政府は,東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて「世界一安全な国,日本」を創り上げることを目指している

オリンピックやるから、やべー奴らの取り締まりは強化しなきゃ。って書いてあるんですよ。ちなみに警察庁・法務省・出入国在留管理庁・厚生労働省の連名で。(その辺について書いたnoteはこれ)

ただこれ、2010年3月から2018年1月まで認められていた「難民申請をすれば6か月後から結果が出るまでの期間は正規資格で働ける」って制度が悪用されていたのも事実で。

とはいえ制度を導入したのは本邦政府なので、難民申請者に文句を言うべきところではないですよね。
私の仮説-東京2020がひとつの節目-が正しいとするなら、万に一つの可能性かもしれないけど、排外主義的なムーブは今後、減っていくのかもしれません。……いやー、どうだろう。

最後にウィシュマさんの件で頻出するフレーズ「入管を解体せよ」についての個人的な見解を申し上げてお別れ。
入管解体を言うことはとても簡単ですけど、入国管理局が入管庁に格上げされたのがいつのことだか知ってます?(正解は2019年4月)
もちろん、自浄作用が働かない組織は解体せざるを得ない。という意思表示に意味はあると思うんですけど、作ったばかりの組織を解体するはずがない。私はそう思ってしまうんです。
だから、響かないかもしれないフレーズを唱え続けるのはアンタ(たち)に任せる。俺(たち)は違う方角から言えることがないかを探すわ。またどこかで合流しようぜ。
(=未読が単行本20冊分以上あった「ゴールデンカムイ」をいっぺんに読んだ余韻)

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