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受験シーズンならでは/週刊「外国人就労関連ニュースまとめ」(22.1.30-22.2.5)

麻布中学の社会科の入試問題が注目を集めましたが、とりあえずぜんぶ解いたうえで印象に残ったのは問13、最後の問題でした。

日本に働きに来た外国人とその家族の人権を守るためには、どのような政策や活動が必要だと考えられますか。君が考える政策や活動の内容とそれが必要である理由を、80~100字で説明しなさい。

麻布中学校の2022年度社会問題

■いったん別のニュースを参照します

2040年に政府がめざす経済成長を達成するには外国人労働者が現在の約4倍の674万人必要になり、現状の受け入れ方式のままでは42万人不足するとの推計を国際協力機構(JICA)などがまとめ、3日に公表

これだけだと、まあね? ぐらいのリアクションにしかつながらないと思った私、JICAの試算が説明されている「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けて~将来の外国人の受け入れに関するシミュレーション(需給推計)と共生の在り方(課題と提言)」って長い名前のシンポジウムの発表資料を確認。
そのうち、いちばん面白かったスライドが下記です。

2030/40年の外国人との共生社会の 実現に向けた調査研究-暫定報告

・このままだと日本は外国人労働者を呼べなくなるよね
・ところで現在進行形で「外国人労働者を呼べている国」はどこでしょう
・答え。中東産油国等
・ちなみに国際指標MIPEX(Migrant Integration Policy Index)って概念があって「8つの政策分野(労働市場、反差別、保健等)で移民と自国民の待遇が平等か」を数値化できることになっている
・その数字が良い国は外国人労働者を呼べそうって思うじゃん? それがそうでもない、って調査結果なんですよ

麻布中学の社会の問題13の解答に話を戻します。
「外国人にも基本的人権がある。というあたりまえの前提を認識せず言葉本来の意味のヘイトスピーチを発してしまうような“愛国者”たちに負けないこと投げ出さないこと信じぬくこと」
ぐらいの意見を書くのか、と思った私、上述MIPEXと移民ストックの非相関って話にohってなりました。
労働環境が激烈に悪くたって、ひとは働きに来る。そう、金払いさえよければね。

■産油国ではなくなったけど全人口の88%が外国人という“金払いの良い”中東の国、カタールで起きていること

要約すると、重労働のせいで命を落とす外国人労働者が多いが、調査も杜撰で「死因不明」で打ち切りになりがち。
そして記事の結びはこんな一文。

カタール政府には労働者を使い捨てにしていると疑念を持たれないよう調査を尽くし遺族への丁寧な説明が求められます。労働者一人一人の失われた命に向き合うことが、労働者を受け入れる側の責任です。多くの死の上に成り立つ豊かさ、ましてやスポーツの祭典など、あってはならないと思います

太字は引用者

スポーツの祭典云々、ここでは今年11月のサッカー、ワールドカップのことですが、それより「よくそんなこと言えるなあ」って思いませんか。
カタール政府が馬耳東風なのは、それはそれで大問題ですけど、われわれも同じ程度には非道な国に住んでいるのでは。

■カタールと同じでは。って自問したくなる話、さかのぼるまでもなく今週の記事からも容易に見つけられます

あと一見関係なさそうだけど「八村塁が休養を経て復帰した」Number誌の記事も、この文脈で読みました。記事では触れられていませんが、彼が昨夏オリンピックの際に浴びせられた罵詈雑言と「休養」が無縁なわけないじゃないですか。

■根っこにあるのは同じ気がするんです

外国人が入国できない、って話も

出自を隠すしかない、と思わせる社会も

昨年2月1日の国軍によるクーデターから1年。ミャンマー国内は当初大混乱しておりましたが、最近はかなり落ち着きをみせています。クーデターによってミャンマーの民主主義は破壊されてしまいましたが、中国のような言論統制社会になりつつも、市民生活はほぼ平常に戻りました。しかしながら日本のマスコミ各社はミャンマー情勢をかなり悲観的に報道しており、ミャンマー情勢をとても心配されておられる方が多いようです

太字は引用者

民主主義は壊されたけど労働力の供給源としての機能は生きてるよ、っていわんばかりの、こんな言説も。

ぜんぶ、俺たち/あいつら、って二分法で「あいつら」は「俺たち」とは違うから。ってコンセプトの上に成り立っている。

■ちょっと毛色の違う記事ですが

ある日、卒業後に国内某メーカーの工場に就職していった元学生が、突然国に帰ることになったと、あいさつしに来てくれたことがあった。
勉強熱心だったアジア人学生。「はい、分かりました」というお約束の返事が返ってくると見越して投げた定型文、「また日本に来てくださいね」に、返ってきたのは予想もしない返事だった。
「分かりません」
同国出身の別の元学生にあとから話を聞いたところ、会社で虐待にあっていたという。それからしばらく後、日本語で投稿されていたSNSは閉鎖され、現在も連絡が取れないままでいる。
そんな出来事から10年以上が経っても、日本の現状は変わらない。

■その他のニュース

ここまではちょっとイイ話。以下は先週ホメすぎだったかな、と思った法相閣議後記者会見の最新版。

【記者】長崎県大村市の大村入国管理センターに収容されているネパール人男性の健康状態が悪化していることを受けて、1月28日に立憲民主党の議員らが同センターを訪れ、適切な医療を行うよう申し入れを行いました。(質問後段略。受け止めについて)
【大臣】一般論として申し上げれば、体調不良を訴える被収容者に対しては、訴えの内容や症状等に応じて必要な診療・治療を適時・適切に受けさせているものと承知しています。
なお、プライバシー等の問題があるため、詳細な事実関係についての言及は差し控えますが、御指摘の被収容者についても、庁内外の複数の医師の診察を適時に受けさせた上、その診察結果に従った医療的対応を行っているとのことです。
その上で、名古屋事案を踏まえた改善策の一つとして、昨年12月28日、入管庁は「体調不良者等に係る仮放免運用指針」を策定し、発出したところです。この運用指針では、収容継続によって健康状態を大きく害するおそれがある旨の医師の所見が付された被収容者については、原則として仮放免を許可することなどを定めています。
入管庁においては、現在、医師の所見を踏まえて仮放免すべき者については仮放免するなど、当該運用指針に基づく運用がなされているものと承知しています。

2月1日付記者会見から

続きましては似たような見出しが全国で並んでいたのでコレクション。

以下のニュースは本来解説が必要なのですが、今日は見出しだけ(=前半で盛り上がりすぎて疲れた)。

労働新聞の記事出典アンケートはこれ

■「ある産婦の無罪のために、皆様の経験や知識をお貸しいただきたいのです」というページが出来ていたので、最後に紹介します

熊本地裁では「放置」したことがいけないのだと非難され、福岡高裁では箱に入れたことが「隠匿」なのだと非難されました。

孤立出産.jp

死体遺棄罪は「死者に対する宗教的感情、敬けん感情」を保護するものだとされています。死者を大切に思う心です。
熊本地裁も、福岡高裁も、リンさんの行為が「死者に対する宗教的感情、敬けん感情」を害したとして有罪を言い渡したのでした。
ここでいう「感情」とは、裁判官の感情ではありません。
公衆の、つまり皆さんの感情です。はたして、本当にそうなのでしょうか。

同上

話を少しそらします。
上記熊本の話を私が初めて目にしたのは2020年12月で(本連載のバックナンバーはこういうときのためにある)、同時期に広島でもベトナム人女性の技能実習生が起訴に至ったニュースがあったんですね。
2020年11月速報

同日の詳報

2021年6月の続報

中国新聞はアーカイブをちゃんと閲覧可能な形で公開していてエラい。

熊本のリンさんは支援されて広島のスオンさんは拘置所に居るって-死産ではなく産後の埋葬って状況は異なるとはいえ-これも中学校の入試問題経由で世に問うほうがいいのでは。そう思いませんか。

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