つい比較してしまう/週刊「外国人就労関連ニュースまとめ」(21.2.21-21.2.27)
国内報道ばかりを見つめていると視界が狭くなるよねえ。と今週あらためて思ったのはシンガポールのニュースが流れてきたとき。
「外国人労働者」への嗜虐的行為を現地報道はどういうニュアンスで伝えているのか。と探して出てきたのが現地有力紙ストレーツタイムズで、案の定、通信社の記事にはなかった担当官庁・労働省の大臣コメントが載っていました。
大意としては「二度とあってはならない事件であり、再発防止のためにできることはなんでもやる。海外からの労働者を虐待する人間を放置しているなどと言われるようには絶対にしない」。
なんですけど、コメントが「5年近く前の事件ですが、残された家族の方が強いられた憤りの大きさを、私は想像することしかできません」と、いわゆる官僚作文にはない熱量で始まっていることに、本邦の法務大臣を思い出さざるをえないわけです。
毎週のように紹介している、閣議後記者会見の様子を今週もご覧に入れましょう。
【記者】
先ほどの質問への回答にちょっと私としては納得がいっていなくて,もう少しちゃんと答えていただければと思うのですが。
個々の審査をきちんとやっているというふうに重ねておっしゃられていますが,例えば2005年の話なのですが,国連のマンデート難民として認められたクルド人の方がいらっしゃるのですが,在日クルド人だった方で,この人,結局,日本では難民認定されず,それどころか送還されてしまったというようなことがあるわけですね。
今回の法案でも送還拒否に対する刑罰とともに,難民申請者の送還を可能とする例外規定を設けるということなのですが,また同じようなことが起きるのではないかと私は心配しているわけです。それで重ねて先ほどの質問となりますが,国連のマンデート難民として認められたような人ですが,クルド人であれば,過去に1度もですよ,日本の難民認定審査が始まって以来,1人も認められていないというのは,これはやはりちょっと不自然ではないのかと,そこをちょっとお伺いしたいです。
【大臣】
不自然であるかどうかということについては,そのような評価をされているところでありますが,出入国在留管理庁で今,審査を行っている難民の認定につきましては,先ほど来,繰り返し,また過去にも,申し上げてきましたが,申請者ごとに判断しているということであります。申請者ごとにその申請内容を審査した上で,難民条約の定義に基づきまして,難民に該当するときには,難民と認定しているということでございます。そのため,難民認定者につきまして,難民認定の判断の材料の一部であります申請者の民族性ということに特化して判断している状況ではございませんので,総合的に判断をして,難民であるかどうかを個別の申請ごとに行っているということであります。
-法務大臣閣議後記者会見の概要 令和3年2月19日(金)
ここで私が言いたいのは、内容もともかく、血肉の通ったことばで語っているか、その一点。毎度のことながら、言質をとられないことに特化したこのしぐさ、呆れを通り越して感心します。
■ついでだから入管法もヨソとちょっとだけ比べてしまう
少し前に公開されていた資料をたまたま今週見かけました。各国比較がとても分かりやすくまとまっているので、遅ればせながら共有。
なお、比べついでに今般の「改正」について、口をそろえて「これはよくない」と述べる新聞各紙の社説を並べる企画。
正直な感想を申し上げてよろしいですか。ダメって言われても書くけど。
シンガポール労働相と、日本の法務相との比較に倣って言うと、みなさん日本っぽい。腹の底から出た声には聞こえない、というか主語がぜんぜん"I"じゃない、っていうか。
■比較といえば、まあこんなんはなんぼ報じられてもええですからね。とミルクボーイ的な感想に至った東京新聞の記事があって。
2月24日付ですけど、Yahoo!個人で次の記事が公開されたのは1月14日で、まあ周回遅れではある。とはいえ、繰り返し報道すべき実態なので、並べて比べようシリーズも、常に意地の悪い見方をするわけでもないんですよ(っていう謎のアピール)。
■ベトナム人と犯罪の話がセットになってしまっているのはもはや珍しくもないことですが、今週注目したのは読売新聞のこの記事。
昨年12月、越谷市の家電量販店に13人のベトナム人が訪れ、次々と在留カードを示しながら、新たなスマホ端末への変更手続きをしようとした。不審に思った店員が警察に通報したため、スマホはだまし取られずに済んだが、提示された在留カードは偽造されたものだったことが判明。13人のうち、指示役の男を含む男女6人が詐欺未遂容疑で逮捕された。
(中略)
「TOKYO BAITO」。県警幹部によると、この事件に関わったベトナム人らは、そう名付けられたフェイスブックのグループを通じて集められた。指示役が「2時間くらいで7000円~1万円のバイトをしないですか」という投稿で勧誘。内容については「書類を書くだけの簡単な仕事」と説明されていた。逮捕された指示役以外のベトナム人は「お金をもらえると聞き、やばい仕事だと思ったがやった」などと供述したという。
バイト諸氏もだけど、指示役だって下っ端感がただよっていて、後年ふりかえって2021年のこの頃はのんびりしてたよなあ。ってならないといいんですが。
■そんなこんなで、ただいまの日本社会を考えるにあたって重要なポイントであることはもはや自明の、「技能実習制度」について。
前駐ベトナム大使、NPO法人代表理事、監理団体理事長、という3人の声が掲載されているのですが、個人的には最後のひとのコメントが最も興味深かったです。
渡航制限で実習生の生活にも影響が出た。実習期間を終えて結婚などの予定があった人は困った。一方で、もっと日本で稼ぎたいと思っていた人は、ビザを切り替えて仕事を続けられるようになり喜んだ。全員が困った、全員が喜んだという単純な状況ではない。個々人で状況は違うと強く感じた。
一方で制度は柔軟性に欠け、実習生や受け入れ企業をまとめて管理しようという姿勢を感じる。たとえば、実習生らの学科試験結果や、受け入れ企業での受験の実績などを基に、受け入れ企業や監理団体を「優良認定」する制度がある。優良認定によって、受け入れられる人数も決まってくる。このため、5年たたずに帰国する人にも「試験を受けてほしい」と伝えることになってしまう。でも、帰るのにどうして試験が必要なのか。十分勉強したなら帰国したらいいし、もっと長く働きたい人は雇用できればいい。
結局、聞きたいのは当事者の声じゃないですか。
入管法改正に反対する、って新聞の社説が響いてこないのとは逆で、技能実習制度における「悪役」として定着してしまっている、監理団体のひとの声を聞く機会は少ない。彼らがどんな感じかを知ったうえで、良い悪いは判断したい、と誰しも思うわけで、こういう切り口の記事は今後も重要性を増していくのだと思います。
■似たような話ですけど、たとえばアメリカ合衆国でアジア系への反感が高まっている。という話はよく聞きますが、ニューヨーク・タイムズにイラスト日記の体裁で当事者の話が載っていて。
タイトルは「汚れつちまつたアメリカン・ドリーム」ぐらいですかね、華僑2世の述懐をイラスト入りで伝えています。下の図はその一部。
「従業員を感染症から守るためにいろいろ気を配ってきたけど、あのねえ、お店と自宅の間の地下鉄で突然誰かに顔面グーで殴られるかもしれないから気をつけて。とかそんな社員教育って出来なくない?」
……たしかに。あと右上の料理、何ですか。ってメニュー画面を見に行ったら黒酢にんにく辣油漬のきゅうりサラダだそうで、美味そうだな。
■今週の最後は「地球にやってきた宇宙人とベルリンに住む日本人 移民マンガ対談」という記事です。
完結しないとコンテンツを満喫できない病気なので、ドラマもコミックも文字通り「敬して遠ざける」ことが多く、だって面白そうだけど完結してないんでしょ? って言いがち、それが私。
なのですが、たまたま上記の対談を読んで知った『バクちゃん』は、ひとまず2巻で完結(ということになっている)らしいので、読まない理由は見当たらないね? という自問自答を経て、読みました。
──「バクちゃん」の中でも、中央線の電車に急に水が注ぎ込まれるシーンとかありますよね。全然現実的ではないけど、妙にリアリティを感じた場面です。
増村 あのシーンは伏線じゃないかって考えてくれた人もいたんですが、全然伏線とかではなく「満員電車は水くらい入れられるでしょ」って感覚があって描いたんです(中略)この場面は描いたあとに「社会構造を表している」って評価してくれる人もいて、「そういえばそうだな」って思ったんです。
香山 背が高い人は水から顔が出ているので苦しくないんですよね。その様子が、社会的に下駄を履いている人を連想させる。
増村 はい。(中略)真剣に嘘をつくと真実に近づいていくところがあると思うんです。現実の社会制度や発明品も、何かの必然性があって生まれている。だから、嘘でも突き詰めていくと、必然性から一般性が生まれるんじゃないかなと。
バクの星から地球へ来た、宇宙人バクちゃんを通じて、日本における「移民」の置かれている状況が理解できる-だけでなく、コミックという芸術表現のポテンシャルを活用して、楽しさとせつなさを同時に味わうことができる快作でした。(対談のもう一方『ベルリンうわの空』も良かった-つい1作目を読んでしまった-けど、まだ完結してないから感想はまた後日ね!)