週刊外国人就労関連ニュースまとめ(20.8.23-20.8.29)
今週は長野の落雷死亡事故で気の毒だった男女が外国人技能実習生*だった、というお話から。※おひとりのその後の容態がわからないままですけど……回復を祈ります。
* 2021/7/5 訂正
外国人技能実習生、と私が書いたのは間違い。短期滞在ビザで入国していたという報道がされています(信濃毎日新聞2021/2/18)(同2021/2/19)
世界を見渡せば「落雷で少年9人死亡」(ウガンダ)とか「落雷、110人死亡 農作業中に被災」(インド)とか、そこまで珍しい話でもないとは思うんですけど、農研機構「平成30年に発生した農作業死亡事故の概要」によると日本の農業においてはせいぜい1年に1件あるかないかというレベル、かつ、今回の犠牲者が技能実習生。という点で、小規模ながら私の観測範囲内のネットではざわついたニュースでした。
先週も書いたように、この1年でめっきり「技能実習生」ということばは、我が国における外国人労働者軽視の風潮とニアリーイコールのものとして(少なくともインターネット上では)定着したようです。
この落雷事故も、「雷注意報の出るなかサニーレタスの収穫をさせられていた外国籍の男女」という第一報から、すわ差別構造か。みたいな盛り上がり方につながる-変な言い方ですが-ポテンシャルを見せていたことが、事故のいたましさ以上に、私には危うく見えました。
人命軽視ではないか/報道の姿勢も問われるのでは/そもそも技能実習制度がよろしくない、などなど、叩きたいがゆえに安全に叩ける対象を探すような傾向。自国の労働力では第一次産業をまかなえなくなっている現実が、こうした事故報道を通じてでも知られていくこと自体には良いも悪いもないのですが、そこに変な色をつけてしまわないようにしないといけない、これは自戒を込めて、思います。
■技能実習生まわりのニュースといえば
この記事に対しては
「実習生の手助けをする気がある監理団体自体がレアケースで、そもそもこの情報を必要としている層にちゃんと届くかどうかも母国語SNSクラスタ頼み。という偶発性がなんとも言えないけど、施策としては良いと思うの」
ってコメントした通りですが……。
今週たまたま見かけた技能実習制度を取り上げた次の記事2本に、話の流れとして当然あってしかるべき(=私見)特定技能への言及がまったくなく、不思議に思ったので、当該記事をメモとして残しておきます。
コロナ禍で介護分野の人手不足はさらに深刻化している。社会福祉法人などの経営支援をしている国際介護人材育成事業団(東京)によると、首都圏や九州の6法人が運営する施設でも実習生約40人のうち半数が来日していない。小沼正昭専務理事(70)は「この状況が続けば介護現場が回らなくなる」と懸念する。 (中略) 一方で、コロナ禍が収束した後も見据え、介護分野で働く外国人材の安定的な確保は急務だ。技能実習制度に詳しい静岡県立大の高畑幸教授は「数年で母国に戻る技能実習生は多い。働きながら介護福祉士の資格を取得できるよう支援するなど、家族帯同で長期間日本で働ける環境づくりが必要だ」と指摘する。
(引用者注: 技能実習監理団体のひといわく)「企業に評価されるのは、やっぱり技能実習生がすごく努力してくれたからだと思います。ここ何年間、実習生の協力が、日本経済を成り立たせてきた。その国が、コロナだけを理由に簡単にシャットアウトして、彼らに苦しみを与える状況なんです。だから、一人でも多くの実習生が日本で早く働けるようになってほしいと思います」
■もうひとつ、技能実習生の失踪についての報道に興味深い一節があったので紹介
技能実習生の労働問題に詳しい神戸大学大学院の斉藤善久准教授は、技能実習生の失踪は、かつては給料が少ないことや職場でのいじめなどが主な原因になっていたものの、最近は経営者が関わるケースが出始めていると指摘しています。
斉藤准教授は「失踪して不法就労する人が増えている現状があり、そうした不法就労者の労働市場が広がっている。最近、そこへ直接的に入っていく経営者も出始めていて、ブローカーを通じないで幅広くSNSのグループなどに入って求人をするケースもある。そうした意味では経営者の失踪への関与が大きくなってきている」と話しています。
※太字は引用者による
技能実習生が失踪するのは実習生側のカネの問題、というこれまでの定説ではそろそろ説明が尽くせないケースが増えてきた、こう解説する記事は珍しいな。
■話は変わって、第一報が2019年11月5日だった件がようやく(ある程度は)落ち着いたということです。
発端は東京新聞だったんですけどね(2019年11月)
弁護士ドットコムが代弁というか熱弁するようになったのが2020年1月
つい先月も、わざわざフィクション仕立てっぽくしている記事が朝日新聞系の媒体に出ていまして、そのしつこく追及する姿勢は良い。と思っていたのでした。
ようやくパスポートは戻ってきたとのことですが、被告が原告に対して損害賠償をもとめて反訴している件と、パスポート以外の慰謝料・未払い賃金の請求が未解決だそうなので、まだもうひと悶着ありそうな。
■ところで法務大臣の閣議後記者会見がテキストになっているのを御存知ですか
今週は「入管収容施設における医療体制等に関する質疑について」というパートが読み応えあったので紹介しましょう。
【記者】入管施設での長期収容に伴う医療体制についての質問です(以下略)
【大臣】個別の案件については,お答えを差し控えさせていただきますが,一般論として(以下略)
【記者】一般論としては分かるのですが,実際にまだ収容されている方がたくさんいるわけですし,それに対する緊急の医療体制,以前から指摘されてきたと思うのですが,それにどう対処していくのか。そういった深刻な状況がある場合に,特に医療関係者と言いますか,医師など,誰が責任を持ってチェックするのかということについてお伺いしたいのですが,いかがでしょうか。
【大臣】先ほどお答えしたとおりですが,健康上の問題がある場合には,医師の診療を受けさせ,医師の指示に基づき,病状に応じた適当な措置を講じているところでございまして,その責任は地方出入国在留管理局長が担っているということになります。
一般論は分かったけどvs一般論しか答えない。の戦いなー。
■個人的に注目している件
これ、何がうさんくさいって「発端となった学内の対立については、文部科学省がすでに双方の意見を聞き取ったほか、札幌出入国在留管理局や大学が設けた第三者委員会も事実関係の調査を進めています」ってところ。
札幌出入国在留管理局や大学が設けた第三者委員会ってそれ本当に第三者ですか、当事者でなくて?
■技能実習生の影に隠れて「労働力」としての注目度が相対的に下がっている留学生ですが、ひとつ上の札幌国際大学の話もまさにそうですけど、働き手として期待するならそう言え、ビザもそうしろ。という以外の感想が無いんですよね。
「市内の外国人留学生はこの5年で倍増。人口減少を見据えて地域で活躍する外国人材を受け入れ、住民との交流の場も設ける」って明るい感じで言われてもなあ。