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法務大臣4代の年頭所感を並べて読む/週刊「外国人就労関連ニュースまとめ」(22.1.9-22.1.15)

今週ホットだったニュースといえば山陽新聞の特ダネ。

2年半、当コーナー毎週更新していますので「またか……」という感想になってしまう自分の慣れを戒めたい。と思って映画『デトロイト』(2017)の感想に、このことを強引に書きました。

人が人に対して抱くことができる憎悪の質や量について、なんでそんなことが可能なんですか。って思うニュースや、ニュースへ投げつけられるコメントを目にしない日は無いじゃないですか。

1984年11月発売の月刊誌プレジデントに掲載された「特高は死なず憲兵は死なず」ってコラムがあるんですけどね。筆者は山本夏彦。
そのころ放映されていたNHK大河ドラマ『山河燃ゆ』に特高警察が出てきて、その俳優の演技が絶妙であった、と(いま調べたら柴田恭兵でした。ウケる)。その時代を知っているはずもない若者なのに、権力をカサにきた嗜虐がこれでもか、というほど再現されていた。
以下コラムからの引用。
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どんなドラマにあらわれても特高と憲兵なら真に迫る。これらを演じて巧みだということは、特高も憲兵も実はなくなっていないことを物語る。それらは分散して私たちのなかにひそんで、折あらば出ようとしているのだなということが分る。
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映画『デトロイト』でウィル・ポールターが演じる役どころ、人種間の軋轢を象徴する若者ですが、彼を見て思ったのは、彼が特別演技の才にあふれているという事実はあるにしても、ああいう役を出来るDNA、実は“私たちのなかにひそんで、折あらば出ようとしている”、まさにそれでは。

今日も今日とて『ベトナム人技能実習生「暴行2年受け続けた」岡山で就労、 監督機関が調査』てなニュースが流れてましたけど、あのね、当事者がヒドいのは無論ですけど、その要素は実は自分の中にもあるんだ、だから悪い奴を吊るせばOK。
じゃねえよ。
ってことをね、もうちょっと俺たちは自覚して生きるほうが良いと思うんだ。

https://filmarks.com/movies/73411/reviews/126120872

関連記事もどうぞ。

■技能実習、特定技能については法務大臣イニシアチブでとりあえず勉強会が開かれるそうです。勉強会? ってバカにすることはない、なぜなら先代の大臣にはいっさい無かったムーブだから。

■そうして技能実習という制度への認知が高まる一方で、難民申請者あるいは非正規在留者への罵詈雑言が止むことがない件は、どうしたもんか。たとえばこういう記事

「だから強制送還だろうが」的コメントを非表示にしているせいで、記事リアクション実態を確認するのは当欄読者各位におまかせしますけど、「国連に指摘されたからって何?」だの「マクリーン事件判決で結論は出ている」だの、そこにはさぞかしいつもの光景が繰り広げられていることでしょう。

後述しますが現法務大臣の心情的なスタンスは、そうしたゼノフォビアを助長してきた近年の法相のそれとはちょっとだけ違う気がしていて、あんまり期待してがっかりしたくもないので、あくまでちょっとだけ、変化が起きるといいんだけど、と思っています。

■今週のその他のニュース

うん、たまには穏やかなニュースも紹介しておきたいですね。

これも興味深い話でした。あとはまあ、いつもの感じ。

■もうひとつ、地味ながら重要な話

名古屋出入国管理局に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが、去年3月に死亡した問題で、出入国在留管理庁は、DVの可能性をうかがわせる情報に接した職員が、措置要領を認識しておらず、ウィシュマさんがDVの被害者であるかどうかの検討を行わなかったことを反省点として指摘した最終報告をまとめています

太字は引用者

そもそもDV被害を訴えて駆け込んだ交番で「じゃあ詳しいことは入管で話してね」って対応が国の定める基準に照らして間違っていたわけです。
今回の記事は入管庁の職員のせいに限定していますが、第一報を受けた静岡県警の責任も同じ重さで扱われるべき、って誰かそこも報道して。

■法務大臣の年頭所感が4人前揃って読めることに気が付いた話
(原文は下記より閲覧可能なのでここでは抜粋して紹介)

山下法務大臣年頭所感(2019)

・1点目は、新たな時代にしっかりと対応した法務行政を実現していかなければならないということ
→ 昨年末には出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律が成立し云々

・2点目は、国民に分かりやすく、国民の胸に落ちる法務行政を実現するために引き続き努力していただきたいということ
→ 積極的な広報はもとより法教育などを充実させ云々

・3点目として私たちはMinistry of Justice という「正義の砦」ともいうべき法務省の一員として働いている自負を持って仕事をしていただきたい
→ 私はこの中で唯一、法務省を辞めた人間です。そして辞めるときに自分が担ってきた仕事がどれほどかけがえのないものであるか、そして皆さんと過ごした日々がどれだけ貴重なものであるか、本当に心の底から思った次第です。

(3点目の導入部、良いですね。全体としてはふつうなんだけど)

森法務大臣年頭所感(2020)

・年末に保釈中の被告人が国外逃亡する事案が発生したため大晦日からずっと働いてます
・今年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されますね。聖火リレーは私の地元からスタートですよ
・50年ぶりに我が国で国連の会議、京都コングレスが開かれますが私が議長を務めることとなるでしょう
・このように重要な2020年、私は難題から逃げずに正義を実現する強い意志で法務大臣を務めてまいりたい
・昨年の臨時国会の途中に、急遽法務大臣に就任することとなりましたので

(なかなかユニークな訓示なこと、お分かりですか)
(ひとつだけ具体的な発言があって、以下)

・法務省の男性の育児休業取得100%達成を目標としています。少子高齢化、人口減少社会の働き方のモデルとして、女性活躍はもちろん様々な事情を抱える職員の皆様がみな生き生きと働ける職場環境の醸成にも努めていただきたいと思います

上川法務大臣年頭所感(2021)

・1点目は積極的かつ自信を持って業務に当たってほしいということです
→ 私は以前に法務大臣を務めたときから「省内の縦割りを排し各組織が横串で取り組んでほしい」と皆さんにお願いしてまいりました。外国人在留支援センター(フレスク)は正に「縦割り行政の打破」の象徴

・2点目はコロナ禍という困難な時期だからこそ法務行政のイノベーションを行っていただきたいということです
→ 行政手続のオンライン化を一層推進

・3点目は京都コングレス
→ 我が国は6年前にコングレスのホスト国に名乗りを上げることとし、その当時1回目の法務大臣の職にあった私がそのことを決断させていただきました。その私が、京都コングレス延期後開催のこの時期に再度ホスト国の法務大臣として、コングレスでの議論をリードさせていただける立場にあることは、正に巡り合わせであります。こんなに運命を感じることはありません

(京都コングレスの件が味わい深いですが、本当に
役所の話/コロナの話/会議の話、だけ。
嘘でも人権とかそういう話はしなくていいのか)

古川法務大臣年頭所感(2022)

・1点目は「チャンスを逃さない」という意気込み
→ 例えば技能実習や特定技能、これらはちょうど今見直しの時期を迎えています。ならばチャンスです。この際、大胆に見直し作業に取り組みたいと思います。技能実習制度には本音と建前のいびつな使い分けがあるとの御意見・御指摘にも正面から向き合わなければなりません。私たちは今、数十年に一度の大きなチャンスを迎えている、その自覚の下に果敢に見直しを進めるのです。
その際、大切なのは制度の良いところも悪いところも率直に認める素直さ潔さであり、改めるべきは改めるという誠実さです

・2点目は「世の中の懐深くに飛び込む気概」を持ちたい
→ 昨年、津少年鑑別所を視察しました。印象的だったのは「もっと早くここに来ていたら」という当事者の切実な声が多かったこと。つまり鑑別所、法務少年支援センターには暗闇でもがく人々に希望の光を届ける力があるということです。ならばもう一押しの努力、つまりこちらから出掛けていって、より多くの人を救えないだろうか。
人は助け合って生きるもの、手を差し伸べて、また差し伸べられて生きるものです。世の中の懐深くに飛び込んでいってこそ法務行政はより強く、より優しく、より多くの人に光を届けることができる。そんな気概を持って皆さんと仕事をしたい

・3点目は「歴史の本流」を意識するということ
→ 人類社会は一歩ずつですが人の尊厳をより重んずる方向へ歩みを進めてまいりました。いつの日か、共生、すなわち全ての人がお互いを認め合い尊重し合いながら助け合って生きる。この共生社会の理想の追求こそ歴史の本流であると、私にはそう思われてなりません。
共生という理念を法務行政に引き寄せて考えるならば、例えば外国人相手であれば出入国在留管理が問われます。
犯罪でつまずき立ち直ろうとする人には更生保護、再犯防止、新たな自由刑などで向き合うことになりますし、差別偏見には人権擁護で立ち向かうことになります。
激動するこの見通しのきかない難しい時代にあって法務・司法行政はどうあるべきか。私たちは常に歴史の本流を意識しながら、まっすぐに取り組んでいきたい

(こうして並べると当代法相に期待したくなる私の気持ち、ご理解いただけるかと)

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