信濃毎日新聞の連載企画をホメる回/週刊「外国人就労関連ニュースまとめ」(21.2.14-21.2.20)
先週もホメたんですけどね、信濃毎日新聞。でもほら、ホメるのは無料じゃないですか。あと、次回はケナす側にまわるかもしれないでしょ? だったらホメられるときは盛大ホメちぎろう。が家訓なので、「五色のメビウス」と題した連載企画がすばらしいです、というお話。
今の「外国人技能実習制度」が「外国人研修制度」と呼ばれていたころから、長野の野菜農家は労働力の供給源を国外に求めてきて、少なからず彼らを搾取することで潤い、同時に我々消費者は安定して廉価な野菜を口にすることができる、そういう生態系が確立しています。
つまり、我々のどの口が「実習生を搾取するなんてヒドいな」と言うのか。が前提にある物語なんですよね、そもそも。
読者におもねるなら、おまえらが日々食ってる野菜がどうやって出来てるのか分かってんのか。技能実習制度なんて廃止しろ、とか勝手なこと言いやがって! なんてことには一切触れないほうが吉、じゃないですか。
でもこの連載は、読者の義憤をあおるためのものではない。そこが良い。
だからって生産者の耳に心地よい話ばかりか、というとむしろその逆で、たとえば黒歴史もしっかり描かれていたり。
06年、研修生を未明から働かせたことが当時違法残業とされ、有力な受け入れ団体の長野八ケ岳農協(本所・南佐久郡南牧村)が入管から資格停止処分になった。このため村主導で農家の出資による受け入れ団体「村農林業振興事業協同組合」を設立した。
その組合も14年、入管から受け入れ停止処分を受けて解散。入管は処分の理由を明らかにしていないが、実習生の在留資格で来日しながら実際には農作業に従事しない人がいたことが原因とされる。内部通報を基に調べた日弁連も、実習生の生活環境などを問題視する勧告書を出した。(第1部10回)
第2部は昨夏の落雷事故で亡くなった外国人労働者-当時は「技能実習生」と報道されていたのですが、どうやら短期ビザで入国して強制送還されるまでの間に稼げるだけ稼ぐつもりだった……というような事情を含め-ふたりを追っていく内容になっていて、これもまた読み応えがあります。
■そんなこんなで、個人的には信濃毎日新聞の連載から目が離せない日々ではあったのですが、今週最大のトピックといえばやはり入管法の改正に尽きる。
しかしこのポジティブ風味の見出しには驚きましたね。
なぜなら今回の「改正」については、事前にいろいろ聞いていたから。
どこまでいっても個人的な見解を述べるに決まっているnoteにおいて、個人的な見解ですけど、という前置きに意味があるのかどうかは措いといて、私個人は「改悪」って言いきってしまうのは逆効果ではないか、と思っている派です。
それは、行政府にもある自我を安く見積もり過ぎているのでは、つまり役所なんだから耳に痛い意見でも容れるべき。という正論はあるものの、やっぱり「話の持って行き方」には工夫があっていいと思うから。最初から「改悪」って言っちゃうと、ケンカ以外のストーリーが見出せないじゃないですか。
ただ、この立ち位置、自分では矢面に立つことなくひとの尻馬に乗るだけ……みたいなヒケメを感じずにもいられないので、じれったいといえばじれったいんですけどね。
ええと、自分が言いたかったことを見失いかけましたが、国外退去の外国人、施設外生活が可能に 入管法改正案を閣議決定という毎日新聞の見出しにはさすがに違和感を覚える。
ただそれを正面から責め立てる役は、私以外のひとにお任せしたい。
私自身はもっと小狡く立ち回ってでも、事態を良い方向に進められないかを考えたい。玉虫色こそ我がカラー、みたいな。
困難な立場にある方々を人間扱いしない国と社会は、実は誰も人間扱いしていないのだと思います。自分がいつか困難な立場に陥って初めて気がつくような社会では、あまりにも悲しいのではないでしょうか。
でもね、この一節には完全に同意します。「自分がいつか困難な立場に陥って初めて気がつくような社会では、あまりにも悲しいのではないでしょうか」。
■その他のニュース、とまとめてしまうには注目ポイントが多かった今週。最も派手なところでいえば新疆ウイグル自治区に関連した話とか。
片や地味っちゃ地味なニュースなんですけど
ベトナム人が補償サービスを悪用してスマホをだまし取る詐欺事件は広島県など全国でも起きていて、会員制交流サイトなどを通じて手口が広まっている可能性もある。
こういう小さいニュースからも、我々の社会が世界とつながっている気配を感じることができるんだけどな、地味ではあるよな。という感想。
自分をバージョンアップしないと、変わりつつある世の中とズレますよ、っていう意味では、外国人就労関連という切り口で目につくニュースは、片っ端から「学びがある」といえる気がしますね。
技能実習制度というのは、1990年代以降、高齢化や人口減少が進み、人手不足が深刻化していくなかで、しかしながら労働移民は受け入れないという建前は表向き堅持しつつ、外国人労働者を引き入れるのに利用されてきた制度だと、わたしは思っています。(中略)ただ、それはそれとして、この制度ですでに多くの外国人を呼び込み、共生が始まっている事実は変えられません。多くの現場で、外国人とともに道路を作ったり、被災地を復旧したり、老人を介護したり、畑を作るというチームワークが試みられています。国籍や生い立ちを超えて、仕事で一緒に汗をかいている。もう、外国人の人手なしにはさまざまな業種がやっていけなくなっている。そういう現実が定着し、進行しています。それが技能実習制度なのでしょう。
この、すでに「走っている制度」をどう改善していくのか。特定技能に移行することで何をどう解決していくのか。外国人と働く現場にはどういった工夫が必要なのか。わたしたちの認識はどう変えていくのがよいのか。技能実習制度という「国際交流」の場はさらに注視が必要だと思います。
この「ただ、それはそれとして」論調、個人的にとても好き。
■世の中のひとが忘れつつある話をしつこく追うのは地元紙または専門紙の得意分野。
日本農業新聞のこの記事、丁寧な積み上げた知見に基づいていることが分かる良い記事なのですが、一点だけ「2020年に確認された主な農作物盗難」という図表がね……。
この辺もう全部「不良ガイジンのしわざ」って印象を植え付けるに十分な量の報道が、昨秋以降、ワイドショーなどを含めて為されていることは御存知の通り。
てことは、よ。
真相はいまだ解明されていない。って主旨の記事なのに、ゼノフォビアに寄与してしまうと思いませんか。
よく見れば「68歳男を逮捕」「79歳男を逮捕」って文字がある通り、明示的に日本人が犯人だった事件も含まれているのにね。なかなか面倒な世の中です。
■エモかった記事を最後に。
出入国管理法(入管法)違反、いわゆる不法残留の疑いで広島南署に逮捕された。広島出入国在留管理局で入国審査官の違反審査を受け、その日のうちに退去強制令書が出た。3日後、長崎県大村市の大村入国管理センターに収容された。(中略)弁護士が話を聞くと、違反審査でベトナム語の通訳がいなかったことが分かった。入管法では審査に通訳をつける義務はないが、男性は審査の内容が「よく分からなかった」と言う。男性の日本語は、あいさつや簡単な単語を理解できる程度。弁護士は「通訳がいなかったため言葉のキャッチボールができず、よく分からないまま手続きが進められた」と指摘する。
入管法によると、違反審査で退去強制と判断されても、特別審理官の口頭審理を請求できる。男性は通訳がいなかったため手続きを理解できず、口頭審理を請求できなかったとして、退去強制の取り消しを求めて広島地裁に提訴した。
ベトナム語の通訳がいなかった理由について、広島出入国在留管理局は「個別の案件に答えられない」としている。
太字は引用者すなわち私です。うん、エモいっつーより、ただただヒドいっす。