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俳優本人に関係ない映画『サイコキネシス 念力』(2018)をオム・テグきっかけで再考する

『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)の間にヨン・サンホ監督が世に送り出した実写作品『サイコキネシス 念力』(2018)、映画のあらすじはおおよそ下記のような感じです。日本語版ウィキペディアから引用。

『サイコキネシス -念力-』(サイコキネシス -ねんりき-、原題:염력)は、2018年公開の韓国映画。ある日突然超能力が使えるようになった男が娘と街を守るために奔走するSFアクションコメディ。監督・脚本は映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』などのヨン・サンホ。主演はリュ・スンリョン、シム・ウンギョン。日本では劇場未公開だが、2018年4月25日より動画配信サイトNetflixで独占配信されている。

去年の3月に見て、ふーん。ぐらいの感想しかなかったのですが-リュ・スンリョンのコミカルな才能もこんなもんじゃないしなあ-つい最近、オム・テグ出演作をおさらいする企画を実行しましてね。

このうちの『国選弁護人ユン・ジウォン』(2015)。

昨年11月、薄い反応だったときの私のレビューにいわく

映画開始早々10分の緊張感とかカメラワークとか、嘘でしょこれ誰もが否定できない大傑作のテンションじゃない? って思わせられるのに、映画を見終わるころには「うん、悪くないよね」ってところまで評価が下がってしまうという、わりと珍しいレベルのザ・竜頭蛇尾。
それでも平均点以上の作品にはなっていると思うんですけど、いやー繰り返すけど開始早々の感想は「どうやったらここから“並”まで落ちるの?」だったので、映画って難しい芸術だなあ。というのが最終的な感想

オム・テグのオの字も無いですな。
そして数日前に再見。けっこう重要な役を任されているじゃないですかオム・テグ! と驚き、同時にようやく、あ、この映画は龍山惨事が下敷きになってるのか。と気付いたお粗末。

■龍山惨事の政府寄り見解が分かる記事

■同じ事象を逆側から見たときの光景

韓国映画が製作時の社会背景を作品に取り込んで成立していることはもはや常識ですからね。『国選弁護人ユン・ジウォン』(2015)は、龍山惨事(2009年1月20日)を踏まえて見なければ、あまり意味がない。
……と、ここまで来て思い出したのが『サイコキネシス念力』(2018)です。
いや、ごめん嘘。
検索してたら次のコンテンツが目に入ったの。

ああ、あれも龍山惨事か、そうかそうか。
だとしたら映画の評価、違ってくるよね。

個人的に連想するのは『ガール・コップス』(2019)。

N番ルーム事件なりバーニング・サン事件なりを描くことが製作者の念頭にあったものの、事件をあからさまに描くといろんな意味で具合が悪い。そこで各方面からの要請をどんどん採用していったんですよ。もっとコミカルに、もっとマイルドに、云々。そうしたら最終的なアウトプットはきわめて出来の悪いコメディになってしまった。
ってことだと私は理解しているんです、真偽のほどは知りませんけどね。

本来はそういう「志」がどこにあるかなんて知る必要はなく、作品単独で評価は為されるべきである、という見方に私も与する者なのですが、同時にあらがいきれない大きなものに正面からぶつかって砕け散るばかりが能ではなかろう、とも思うのです。
妥協して、本意ではないものになってしまったとしても、ゼロ回答よりはマシでは、みたいな考え方。

『ガール・コップス』と同様に、『サイコキネシス念力』も、たとえば龍山惨事当時の政府・権力を非難することだけを目的にしてはいないように思えます。
ひどい目にあう「民」の側にも眉をひそめるような内情はあり、ただそれは命を代償にしなければならないほどのことだったとは思えず、不条理の解は現実的な手段にはない、ならば……みたいなコンセプトがまずあって、結果的に半端な作品になった。そういうことですね、たぶんね。

ええ、ヨン・サンホともあろう監督の作品にしてはワケが分からんよ。と思っていたのがようやく腑に落ちました。それもこれも作品とはまったく関係がないオム・テグのおかげです。以上、オム・テグさんは徳が高いね。の一席でした。

PHOTO: IMDb

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