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入管法改正案見送り/週刊「外国人就労関連ニュースまとめ」(21.5.16-21.5.22)

ふははは、俺たちの勝利だ! 的なことを言うキャラじゃないから言わないわけではなく、俺はしつこく覚えてるんだよ、閣議決定されたタイミングの大本営発表のような記事を。

2021/2/19 毎日新聞

この時点で入管法改正案がどういう内容になるかは当然知られていました。産経や読売はともかく、朝日や毎日の初報は当然批判的スタンスになると思っていたのでものすごく驚いて、あやうく悪態つきそうになるところを押し殺した俺の良識をご覧ください。あ、ツイート中に誤字あるな……それだけ動揺してたんですー、ってことで。

ちなみに同日の朝日新聞報道はこちら。

期待と不安? 期待? 私のリアクションはこんな感じ。

記憶しておきたいのは「民意」が改悪をストップした。って言うけど最初からそんな空気があったわけではなく、露悪的な表現をあえてするなら「ウィシュマさんが亡くなっていなければ」静かに通過していた、ってことです。つまり、浮かれていられる要素、どこにもないよね?

■さて。入管法改正案が見送られた5/18(火)の情勢を復習しておきますか。
前日までのムードは5:00配信の次の記事が伝える通り。

11:49

12:11

21:56

■海外にも伝えられる本件

BBCの記事は今回の運動が
「活動家によって着目され」
って書きぶりなところを含め、これが世界標準の報道なんだろうな、ただ日本でactivistsって書いたら反射的に警戒する読者が多いことをメディア側が忖度していて、有志や市民ってことばが代替するんだな、って学びがありました。
フランス通信社の配信記事に自社見解を混ぜているアラブニュースには

「批判が生じたのは、以前ガーナ人男性が強制送還の際に不当に死亡させられた、別の事件が起こった後だった」
という一節が含まれていました。2010年3月のことを覚えていた日本人は(自分を含め)申し訳ないけどいない。と思ったんですが。
さらにニューヨークタイムズには我々が慎重に見ないようにしている指摘が。

コーカソイドが相手なら暴力をふるったり、ネグレクトの末に亡くなるような事態には至らなかったのでは。
ウィシュマさんのように若くてハッとさせられる外見の女性ではなく、しょぼくれたおじさんだったら今回ここまで声が大きくならなかったのでは。
……いずれも反論できないと私は思うんですけど、どうですか。

■しょぼくれたおじさんって表現は不適当ですよね、すみません。自分がしょぼくれたおじさんだから、つい。

先日、入管庁の収容施設のひとつである名古屋入管で、スリランカ人女性の収容者ウィシュマ・サンダマリさんが死亡したことが国会でも(中略)各マスコミが取り上げている。
筆者が伝えたいのは、それ以前に起きた、もう一つのスリランカ人の死亡事件だ。
7年前の2014年、東京出入国在留管理局(東京都港区。以下、東京入管)に収容されていたスリランカ人男性のニクラス・フェルナンドさんが“謎の死”を遂げた。それも収容されてからわずか5日後の死亡である

そしてウィシュマさんやニクラスさん以外の、入管で亡くなった方々のリストがこちら(3週間ぶり2度目の紹介)

■ウィシュマさんに話を戻します

スリランカ人のラトナヤケ・リャナゲ・ウィシュマ・サンダマリ(以下「ウィシュマ」)さん(33)は沼津市の交番に駆け込み、パートナーによるドメスティック・バイオレンス(DV)から逃げてきたと訴えた。誰がどう見ても被害者である彼女だが、ビザが切れていたことを理由に、警察は彼女をまずは犯罪者として扱った

この記事の筆者はフランスメディアのひとのようですが、私ウィシュマさんの記事けっこう見逃してないと思っていたのに、え。ってなったのが次のエピソード。

出入国在留管理庁からウィシュマさんの遺族に提供された情報によれば、ウィシュマさん虐待していた同じく非正規滞在者の元恋人の男性は、確かに逮捕された。この男性はその後、日本語で書いた圧力をかける手紙をウィシュマさんに送ったことが明らかになっている。
この手紙は勾留されていた警察署の封筒を使って、警察署から名古屋入管宛てに送られた。複数のジャーナリストが、ウィシュマさんの家族に対して、元恋人は仮放免を得たと伝えている。

いや、そっちはさっさと仮放免なんかい。あと「警察署の封筒を使って」?  ひとの心をざわつかせる表現がウマいな。

入管法改正案にはただでさえ問題点が多かった。それが話題となるなかでウィシュマさんの死亡事件が起こったことで、事態は政治的な争点に変わった。従来、菅政権の支持率が下落傾向にあったにもかかわらず、コロナ対策や東京五輪開催の是非について批判の切れ味が鈍かった野党勢力やマスメディアにとって、入管法改正案問題は格好の政権攻撃の材料となった。結果的に法案が取り下げられたことで、野党は最近では珍しい金星を挙げた形だ。
もっとも、今国会での成立は断念されたものの、この「人道的問題」について、野党支持層をこえた範囲で国民的な反対意見の盛り上がりはみられなかった(仮に法案が通過していれば、それほど抵抗なく受け入れられたのではないだろうか)。
今回の入管法改正案に問題が多かったことは明らかだ。ただし、昨今の日本社会で広く共有されている不寛容や人権意識の低さといった「現代日本人的価値観」が、入管庁や日本政府の意思決定や制度運用を下支えしてきた部分も、おそらく相当に大きい。問題の真の根は、むしろこちらのほうにあるのではないか。
「入管法、取り下げ」
18日午前、参議院法務委員会に出席していた上川陽子法務大臣がこのことを知ったのは、野党議員の質問中だった。大臣自身、この決定を知らされていなかったようだ。

■入管法改正案が見送られた件を総括する社説にはおよそ目を通したつもりですが、まあ社説ってそういうものなんだけど、アタリマエのことしか言わないんですよね。ツッコミドコロを残してくれていた3紙だけ、ご紹介。

補完的保護対象者の概念が法改正案に盛り込まれていたことへの、沖縄タイムスの言及。
それはいいんですが、「補完的保護対象者」って「難民」未満のひとを指すことばで、それはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の指摘を反映したものです。
繰り返しますが、それはいい。
ただ、UNHCRのほかの指摘、たとえば「ノンルフールマンの義務の履行の確保が可能な文言に修正されることが望まれる」など、ガン無視している要素がそもそも多すぎたのが提出されていた「改正案」だった、というところまで書かないといけないと思うんです。

朝日は“「全件収容主義」を改めるなど、改正案にも見るべき点はあった”って書いています。それは監理措置制度のことを指してます? やだー、あれには実効性がないって1ヵ月前に自分で社説に書いてたじゃないですかー。

最後、“第三者が監視し、内部に立ち入って調査もできる仕組みが必要”って信濃毎日新聞の指摘、個人的には同意するのです。
が。
「難民認定制度に関する検討結果(最終報告)」で、いやー言ってることは分かるけど現実的には無理よ。って入管側が見解を表明している以上、今後とも改まる気がいっさいしないんです。

第5 不服申立制度に関する提言
専門部会は,難民認定業務に対する信頼性を高めていくためにも,手続の公正性・中立性等に対する配慮が強く求められるとの観点から,複数かつ奇数から成る第三者(難民調査官等の法務省入国管理局職員ではない専門家)を不服申立ての審査手続に関与させることを提言する。

ね、第三者を入れるべき、って言うんでしょ、わかってる、わかってるよ。ってまず書いてある。ここから数行下の記述をご覧あれ。

2  第三者関与の具体的な制度案
(1 )諮問機関としての位置付け
専門部会においては,以上の諸点を踏まえ,第三者関与の望ましい在り方について検討を重ねた結果,独自の裁決・決定権を有する第三者機関の設置は必ずしも最善とはいえず,法務大臣に対する諮問機関として関与することが望ましいとの結論に至った。
すなわち,不服申立手続に関与する第三者に裁決・決定権を付与する仕組みを作るとすれば,難民認定に携わっていない第三者が一から当該案件の検討をしなければならず,最終判断に至る過程が長期化するおそれが大きい。また,特に複数の第三者が関与する場合,各自の判断が異なる可能性があるが,第三者に最終判断権を付与するとなれば,判断の統一性が損なわれる場合の生じることが心配される。さらに,新たに独立した機関を設けることについては,行政改革の趣旨からも制約が多い。したがって,現行制度のように法務大臣が統一的観点から最終的な判断を行うことが好ましいものと思われる。

なんだかんだ言って無理。って書いてあるこの「検討結果」、全編こんな感じなので、ちゃんと読んだほうがいいです。

■改正案については、ドサクサにまぎれてこんな発言が出ていたこともあらためて記憶しておきたい

“10項目の修正(要求)に関して、6項目までは合意できていると聞いている”

■立憲民主党が提示した入管法改正案の修正案概要
(1)難民認定手続き中の送還停止規定の適用外となる「3回目以降の申請」を削除
(2)送還妨害行為などに対する退去命令に違反した場合の罰則の削除
(3)「監理人」の監督のもと収容施設外で生活できる「監理措置」の基準明確化
(4)監理措置期間中を通じた就労許可
(5)監理措置対象者の生活状況などについて監理人に課せられている届け出義務などの削除
(6)施設収容にあたり司法審査の導入
(7)施設収容期間に上限の設定
(8)一時的に収容を解く仮放免の基準明確化
(9)本来なら強制送還となる外国人に対し、法相が特別に在留を許可する基準の明確化
(10)難民ではないが、難民に準じて保護すべき外国人と認める基準の明確化

10項目を見た瞬間に「そこ入管が飲むわけねえ」って私が思った太字部分の数と一致しているので、はーん。ってなったんです。
ウィシュマさんに気をとられるのは仕方ないけど、議論の本質を忘れてしまうのは故人への冒涜でもある、私はそう思います。

■そうこうする間も感染症ウイルスは在留資格とか気にせず俺たち社会を平等に襲っており

3番目のニュースの愚かしさたるや、ことばを失うんですが。

■あと、いまさら? と思ったニュース

この公益法人の評判が悪いことぐらい、こっち方面で仕事をしたことがある人間なら漏れなく知っている話なんですよ。だからこれまでスルーしてきたくせに「いまさら何なん?」という感想だったのですが、甘い汁を吸えるようなスキームをいちはやく創出した「組織の問題」を、前会長「個人の問題」に矮小化してもらっても困るんだよな。

■最近マジで本業を忘れそうになるんですが、こっち関係のサラリーマンなんですよ私

7月に開催予定の日本語能力試験に向け、ベトナム人技能実習生は毎週土曜日、同公民館で日本語の勉強を続けている。(中略)受講生の1人で、来沖2年となるタ・チュン・キェンさん(23)は「日本語をもっと知りたい。日本人と話せるようになりたい」と受験の動機を語った。タさんは北部のホテルで客室を、宿泊客が少ない日はホテルの周りを清掃しているという。毎月の休日は6日だけ。移動手段も自転車しかない。「沖縄の観光地は分からない」と退屈な生活ぶりをうかがわせた。生活で困ったことがあれば誰に相談するかと質問すると、「誰にも相談せず、寝込む」と寂しい顔で答えた。
今後も在留外国人の増加が見込まれるなか、政府は早急に、外国人に読み書き能力を獲得する権利を保障する日本語教育プログラムを立ち上げる必要がある。

■最後に「特高と入管」と題したコラムについて

戦前の特別高等警察、略して特高は反体制運動を弾圧した。治安維持の名の下、捕らえた人の扱いは熾烈を極めた。プロレタリア作家小林多喜二を拷問して死に至らしめたのは有名な話だ
特高が担った役割の一つが外国人、それに朝鮮など植民地の人たちを扱う入国管理だった。戦後、その特高関係者の少なからぬ部分が公職追放を免れ、様々な形で入管の仕事に携わったと国際法学者の大沼保昭氏が指摘している(『単一民族社会の神話を超えて』)

まじめな私、この文章を見て近隣図書館まで行って該当書籍を確認したんですよ。
・特高の残滓が入管にあるって本当かよ
・残ってたからって何だよ
みたいな声に対して何をどう自分は思うか、と返すにはひととおり原文にあたらないとダメじゃないですか。
ネットで検索しても内容にまで触れた文章が見当たらず、知ったかぶりも出来やしねえ。
というわけで、誰かが知ったかぶりするための手がかりを残しておきますね(しんせつ)。

■明治憲法下の日本
・入管法が外国人の人権を認めない主旨だったのは、在日朝鮮人(当時の呼称)および在日台湾人への牽制
・大日本帝国が植民地を有していたがゆえに成立していたダイバーシティが植民地出身者を差別する必要を生んでいたという皮肉
・この時代の入管機能を担当していたのは間違いなく特高警察

■GHQによる外国人登録令の成立期(1945-1951)
・GHQそのものに確たる意向があったわけではなく、日本からの提案ベース
・植民地出身者は母国へ帰らせる大方針のもと、「帰らない在日〇〇人」の人権は制約されて当然、が日本側の総意
・中国との関係悪化を心配したGHQによって台湾出身者への言及がフェードアウト、実質的に朝鮮半島出身者を目がけた法律に
・内務省解体後は外務省管理局入管部が出入国の記録整備や不法入国者の取り締まりにあたり、退去については地方警察が執行する体制

■出入国管理庁の発足(1950)
・警察と入管の分離を主張するGHQ、ただそろそろ独立国家として日本のことは日本で決めろムードに
・そんななか朝鮮戦争が勃発。うやむやに(入管庁は外務省の下、だが実務は警察が担当、という状態でアメリカの関与が薄れていく)
・1952年、出入国管理庁を廃し、法務省入国管理局の設立(実質1本化)

特に興味深かったのは、特高警察の成分が今日の入管の体質に影響している、という天声人語が引いていたところではなく、そもそも「植民地出身者を含めた大日本帝国時代の多様性」って観点でした。そう言われればそうだな。

"ijclark" photo by courtesy of flickr


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