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2024年に見た映画ベスト10

年間視聴タイトルが4年ぶりに200を割り込んで173、そういうお年頃……って書いたのが1年前で、なんと今年は99。2016年以来の2桁。
無理に見なくてもいいんだ、なにしろ俺はそもそも「映画好き」ですらないんだから。という自己紹介をさんざん繰り返していますが、さすがに母数が減るとベスト10選出作業にも難が出る、という学びがありました。
cf. 2023年2022年2021年 / 2020年 / 2019年


10.『正直政治家チュ・サンスク』(2019)

PHOTO: IMDb

ベスト10を選ぶ作業、特定のジャンルや特定の演者、制作者などに偏らないように。という出版編集出身ならではのバランス感覚が抜き難くあるのですが、今年はそういうフィルターを通した後でなお韓国作品の残留数が多くなっており。
あえて選外に落とすならこれなんでしょうけど、いやーバカ映画が全体に不振だった(正確には「自分にハマるバカ映画を見出せなかった」)1年において、ラ・ミランとユン・ギョンホが存分に力を発揮するコメディ本作は記録しておきたい、と思いました。
やっぱりバカ映画ってバカにされるじゃないですか。だから良いバカ映画はちゃんと称えるべきなんですよ。

9.『ジョッキー』(2021)

PHOTO: IMDb

競馬映画コレクター、こっち方面を探すとダメ映画遭遇率も上がってしまう哀しみと不可分(たとえば『シービスケット』2013なんて原作はものすごい名著なのに映画としては……なの)。
それは競馬というスポーツの醍醐味を伝える技術の同時代的限界であり、文字が喚起する人間の想像力の豊かさでもある。というか簡単な話、レース映像を上回る興奮を創造するのがどれだけ難事業か、という意味で、そう考えたときのこれ。まったく期待せずに見たのにわざわざnoteにまとめたくなるぐらいには感心させられたのです。
競馬ファン歴40年のおっさんの言うことを信じろ、これは良い競馬映画だ。

8.『ソウルの春』(2023) 

PHOTO: IMDb

12月3日のク―データーが未遂に終わって隣国住民としてすら安堵の声が漏れたついでに劇場まで行きそびれていた本作を年末鑑賞。
今年はついに一度も劇場まで足を運ばなかった、それは金銭感覚以上に隣にウザい奴が座ったら台無しじゃん、みたいな社会へのイヤな予感が年々強まっているからで(または加齢によるワガママ度の増)おかげさまをもちまして「これは映画館のスクリーンサイズで見たかったよなあ」みたいな思いとの等価交換。
それはそれ、ファン・ジョンミンのヅラが鮮烈すぎるせいで損していますがパク・ヘジュンが盧泰愚に寄せてるの、特に意識も意図もしてないんだろうけど「そう思えば似てる」となってくるのは俳優としての彼の充実を示すものですね。
あと、近過去にフィクションを混ぜる手つきとしてこの「分かりやすい虚構」の塩梅を絶賛しておきたい。主観に基づいて出来上がるのが「作品」である以上、歴史改変の誹りは免れないわけですけど、いいですか、ここはフィクションですよ。って少なくとも同時代を過ごした人間に分かりやすい目印をつけて仕上げる姿勢、誠実と感じました(=不誠実な作品をちょうど昨日見たせい)。

7.『寄生獣-ザ・グレイ-』(2024)

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「地獄が呼んでいる」以上にヨン・サンホだったので、映画ベスト10っつってんのにシレッとこの順位に入れざるを得ない。以下filmarksレビューの再掲です。

原作完結からもう30年近いので今こんなことを言っても信憑性ないものの言わずにはおれないので言うんですけど、俺もうずっと原作をアレンジするなら広川主人公で再編集すべき派だったんですよ!
いやー、まるで期待も予想もしていなかったタイミングで自分の妄想が出現することってあるのか。
ヨン・サンホにしてはキリスト教要素が少なかったですけど、インタビュー何本か読んだらどうやら原作ファン魂がライフワークの宗教観をも上回ったっぽく、それはそれですごい話。

グレイって副題、宇宙人の代名詞のあのグレイだと思うんですけど間違ってたらイヤだと思ってなのかあんまり世間で触れられてなくてちょっとウケるよね。寄生獣を分かりやすく言えばアウタースペースからの侵略者ですよ、ってグローバル向け親切心と捉えたんですが、そういう不要な解題の最たるものが本作後半のあからさまな「語り」で、それは執筆当時25~32歳だった岩明均がたどたどしくも言及を避けたやつで。
原作者のそうした美学に反してコマーシャル要請に従う対照的なヨン・サンホ(46歳)、それは彼の作家性というよりは世間ズレというべきで、むう。
って同担拒否の声が漏れそうでしたが、まあ暗示していても伝わらない世の中だしな、と30年の歳月を理由に許しました。どうだい、このあたりいかにも面倒くさい原作ファン感想だろう。

とかなんとか書いてきましたが本作最大の個人的な驚きは俺が愛してやまない『チョ・ピロ 怒りの逆襲』(2019)で鮮烈な印象を残したものの仕事しねえなあ、とずっとインスタでフォローしていたチョン・ソニが俺に黙って突然こんな大きな仕事をもらっていたことでした。言ってよ!
(いま彼女のアカウント見直したら1ヵ月前にポスター載せてた。すまん気付かんかった。あーびっくりした)

ドラマなあ、って渋ってたのを300分の超大作だと思えばいいじゃないですか、と背中を押してくれたレビューに感謝。

6.『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023)

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スパイディー贔屓という点を加味しなければ実写もアニメも毎年ランクインしている理由が我ながら分かりませんが、やっぱり製作陣の新しいことへチャレンジする姿勢に毎回感動するんだよな。

5.『ルックバック』(2024)

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原作者のほかの作品ミリしら勢、かつ、初出をネットで読んだとき誤った作品と関連付ける安易レビューにものすごく腹を立てたことをいまだに根に持っている。どっちかというと良くない客なんですけど、この作品の持つ意義はおそらく当分の間、目減りしないと思え、それは我々全員にとって不幸でしかないものの、2024年はこの作品が出た年、と記憶されて良いです。

少年ジャンプ+でむちゃくちゃ話題になった藤本タツキ「ルックバック」の感想ついでにひとびとがあまりに無造作にこの作品のネタバレをしていくことに憤慨したマンこと俺、そもそもキミらの理解は粗雑すぎんか。などと、プンプンがおさまらない一日でした。
さすがにもうこの作品が何を語ったか、あるいは何をあえて語らなかったか。という話は解禁されていいタイミングなんでしょうけど、だけどね、「ルックバック」を読んだキミらがいま連想してるのは『ラ・ラ・ランド』(2016)なり『ベイビー・ドライバー』(2017)なりが採用した話法であって、よく考えろ、『ワンス・アポン~』じゃなかろうよ。
ねえ、この作品に「そういうシーン」ありました? ないよね?
それはタランティーノが意志を持って「無い」を描いたからで、そのかわりに映画に「あった」のはタランティーノの大きな愛情というか哀惜というか、慟哭……慟哭じゃないな。
歌い上げたくなりそうなものじゃないですか、俺はこんなに悲しい、とか俺はこんなに愛して、とか。
だけど、タランティーノの関心は自分の思いを歌い上げることではなく、宝物のように大事にしていた、今はもうない「昔昔ハリウッドにあったはずの何か」を、形にした瞬間に風化してしまうようなその何かを、映画の形に定着させること。ただそれだけだったんですよ。
……というふうに見たんですよ、少なくとも私は。ものすごくエラそうに言ってるからまさかアマプラで100円になるまで放置していた奴だとは思えないでしょう。謹んでお詫び申し上げます。

オアシスの曲Don't Look Back In Angerの前提にはデビッド・ボウイの曲Look Back In Angerがあって(ちなみにノエル・ギャラガーのボウイ好きは有名)、ボウイはボウイで有名な戯曲(とその映画化作品)『怒りを込めて振り返れ』(1959)を念頭において作った、みたいな文化の積み重ねがあって藤本タツキ作品「ルックバック」がある。
もちろん最後のひとこまに本作の円盤が描かれているのは作者にとっての思いが込められた証拠ですし、だからこの作品のことを思い出すのは正しいんですけど、あんまり雑にネタバレかますようだと俺が呪いをかけてやるからな。これから見ようとする映画のオチをなぜか必ず直前に知ってしまう呪い(=想像してイヤな気分になっている)。

2021年7月19日、即ち原作公開同日怒りの記録
(タランティーノ作品レビューとして書いた)

4.『あしたの少女』(2022)

PHOTO: IMDb

ペ・ドゥナという強い意志を持つ俳優の、強い意図を感じる作品は彼女とチョン・ジュリ監督のタッグによる前作(『私の少女』2014)以来待望のもので、その期待が裏切られる気がまったくしないのはソン・ガンホとポン・ジュノ、もっと個人的には一時期のデンゼル・ワシントンとスパイク・リー、ぐらいの組み合わせで、作品自体は本当に目をそむけたくなるぐらいに現実社会を映しているし、救いはどこにあるのか。以外の感想が鑑賞後に浮かばない絶望的な内容なんですけど、ああ、映画を見た。という充足感がもたらす幸福という意味で、これが今年の最高峰でした。

3位
2位
1位、いずれも未選出

そう、今年単独を取り出して考えれば『あしたの少女』(2022)を1位にすれば良さそうなところ、冒頭にも書いた通り、分母の数が少ないと10本も選べないんだわ。という結論なのでした。(でも1位じゃないんだよ、それは今年1年の自分ランキングとはいえ、過去との比較を避けて通れないので……我ながら面倒くせえな)

ちなみに未見タイトルは各サブスクにいっぱい貯まっていて、しかも自分が好きそうなやつも少なくない数あるので(もうちょっと言うと宗教上の理由で某サイトには加入しないのでクリント・イーストウッドのアレが見れねえ)「見る気になるときが来れば見る」「無理をしてまで見るのはかえってよくない」という、年齢を重ねたスタイルもナシよりのアリ、ということでいいんじゃないか。
そんな1年でした。

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