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人権の話なんかするな!/週刊「移民国家ニッポン」ニュースまとめ(23.1.22-23.1.28)

斯界の恩人の訃報が届いてガックリきていることもあって、この分野のニュースが個人的に目に入ってこなかった今週ですが、世間的にも話題になったのはBBC特派員が離任するに際し残していった文章ですかね。

房総半島の村で会議場に座っていたことがある。消滅の危険があるとされる約900の日本の集落のひとつだったからだ。議場に集まった高齢の男性たちは、現状を心配していた。1970年代以降、若者が仕事を求めて次々と村を離れ、都会へ行くのを、ここのお年寄りたちは見ていた。残る住民60人のうち、10代はたった1人。子供はいなかった。
「自分たちがいなくなったら、だれが墓の世話をするんだ」。高齢男性の1人はこう嘆いた。日本では、死者の霊を慰めるのは大事な仕事なのだ。
しかし、イングランド南東部で生まれた自分にとって、この村が死に絶えるなど、まったくあり得ないばかげたことに思えた。絵葉書にしたいようなたんぼや、豊かな森林におおわれた丘に囲まれた、美しい場所だ。しかも東京は車で2時間弱という近さなのに。

「ここはこんなに美しいのだから」と、私はお年寄りたちに言った。「ここに住みたいという人は大勢いるはずです。たとえば、私が家族を連れてここに住んだら、どう思いますか」。
会議場はしんと静まり返った。お年寄りたちは黙ったまま、ばつが悪そうに、お互いに目をやった。やがて1人が咳ばらいをしてから、不安そうな表情で口を開いた。
「それには、私たちの暮らし方を学んでもらわないと。簡単なことじゃない」

この村は消滅へと向かっていた。それでも、「よそもの」に侵入されるかと思うと、なぜかその方がこの人たちには受け入れがたいのだった。

ウケる(ウケない)

記事では移民受け入れの少なさにも触れ、「出生率が低下しているのに移民受け入れを拒否する国がどうなるか知りたいなら、まずは日本を見てみるといい」と辛辣だ。
過去にポツンと取り残され、それでも変わることを拒む国や社会は、記事にあった房総半島の村のように消滅する運命にあるのだろう。
そんな運命に抗うように、市民たちの助け合いは始まっている。国籍や背景を乗り越えて、多様な人達との共存の道を探り、手を差し伸べ始めている。市民一人ひとりの意志に希望を感じる。

■ちょっと面白い一節があった対談記事

谷口 本の冒頭に、日本では人権が「思いやり」と同一視されている、という指摘が出てきます。まさにその通りだと思うのですが、日本には人権を誤解しているどころか、積極的に否定してくる人さえいます。
先日、ホテルのレストランで、昼食を食べながら出版社の編集者と打ち合わせをしていたんですよ。今、私が作っている人権の本の構成について話していたら、隣に座っていた60代くらいのご夫婦の男性が突然怒鳴ってきたんです。「こんな場所で人権の話なんかするな!」って。びっくりしたら、お連れ合いのほうも、「ごめんなさいね。でも美味しく食事をいただいているときに、そんな話を聞きたくないんです」って。
(中略)
大学で教えていても、「先生、人権って、偽善じゃないですか?」って学生に言われることがあるんです。道徳とか思いやりとは別に、すべての人に人権があるということが理解されていない。自分が好きとか嫌いとか関係なく、何の条件もなく、すべての人に人権があるということが教えられていないんですね。

藤田 人権と思いやりがごっちゃになっている点が、日本で人権を語るときのいちばんのネックだと私も感じています。帰国のタイミングで、大学を行脚して講義をしているんですが、その点をじっくり説明すると、学生は口をそろえて「知らなかった」と言います。道徳と人権の大きな違いは、道徳は場所や文化、時代によって変わる相対的なものですよね。対して人権は、すべての人間が生まれながらにもっているもので、さらに思いやりと違って、政府が実現する義務を負っているものです。でも、入管施設で起きていること一つをとっても、人権の概念が日本に全然浸透していないことがわかって愕然としますよね。

ヒューマン・ライツではなくシビル・ライツを「人権」とみなしてきた誤謬、という説を紹介したことがありましたが、そうか、人権と道徳も混交してるんだな。
……にしたって「こんな場所で人権の話なんかするな」は秀逸。
けっこうな数、居ると思うんですよ、そういうことを本気で思っているひと。滅びろ。と思わないではないけれど、残念ながらそういうひとたちを含めて形成されているのが、日本社会なわけで、呪いのことばを発した途端、自分に跳ね返ってくるっていうね。

■という流れで紹介せざるをえない

条例案を公表すると、条例が「守りたい」はずの当事者や支援者らから、内容などについて疑問の声が相次いだ。とりわけ「当事者の話を聴かず、突然出てきた」(市民団体関係者)など、議論の進め方には強い反発も寄せられた

根回し不足の話? そうなの?

■他にも「人権って何」「何だと思ってます?」で括れるニュース、多いんですよね

■今週のその他ニュース

時事通信の「外国人労働者182万人」記事、インドネシアからの来日が前年比47.5%増って書いてあって、ベトナムから来てくれなくなったら次はインドネシアですか。という感想を当然生むわけですけれど、かろうじて言えるのは、インドネシアは国民を海外へ派遣する所管である労働移住省が仕事している点。
ベトナムから日本に渡る際に負担させられる法外な手数料は「官」の黙認の上に成り立ってきたものですが、政治の腐敗指数が世界180ヵ国中96位って国なのに、インドネシアで技能実習の送出機関が不正な手数料を取ったら厳罰処分になる、という常識が定着しているんですよ。その辺ちょっと不思議な気がしていますが、もちろん良いことなので。
(なおベトナムは87位、さらに言うと日本は18位だそうです。本当ですか政権与党がカルト支配されている国のスコアはそれでいいんですか)

■というわけでサムネイルはNGOトランスペアレンシー・インターナショナルによる「2021 Corruption Perceptions Index」から

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