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話題の「人身売買報告書」を21年分まじめに斜め読みする(まじめとは)

USの国務省が作成している報告書は「その国は人身売買の解消に向けた取り組みをどのぐらい本気でおこなっているか格付けチェック」をおこなっていて、上から順に
  普通      TIER1
  二流      TIER2
  そっくりさん  TIER2 WATCH LIST
  映す価値なし  TIER3
の4段階に分かれています。
去年、2年連続TIER1だった日本が二流/TIER2に「格下げ」された、というところにニュースバリューを見出す向きが多かったせいで話題になったのですが

2001年から今年までの全21回中、実に18回がTIER2で、2018年と2019年の2年だけがTIER1。
2004年に至ってはTIER2 WATCH LIST(限りなく3に近い2)評価だった、ということを、まずは認識したい。

つまり一貫して「がんばりましょう」って言われているわけですよ、本邦。じゃあなぜ2018年に「よくできました」ってなったか。
それはね、ずーっとずーっと指摘されていた国際組織犯罪防止条約人身取引議定書に批准した、そのご祝儀だったのです。当時の報道からもちょっとだけ、その空気は窺えますね。

但し、性労働等の強制労働が、行政処分にとどまり、刑事事件として取り扱われることが少ない点は不十分だとし、あくまで最低基準を満たしたにすぎないと苦言も呈した。

さて。
去年は2020年度版の把握で力が尽きたので(上記2020.6.28note参照。2004年、T2WL以前の認識不足をごまかしているのはそのせい)今年は21年分を斜め読みでいいから全部見よう企画にチャレンジしました。
以下、主だったトピックを並べておくので、みなさん知ったかぶりしたいときにお使いください(寛容)。

2004年(ランクT2WL)
前年2月の「18都府県警察が各地の入国管理局と合同で全国24箇所のストリップ劇場の一斉摘発を実施し、劇場関係者ら15人を入管法(不法就労助長)違反、公然わいせつ等の罪で逮捕・収容するとともに、ストリップ嬢等として稼働していたコロンビア人女性ら68人を保護した。被害女性の中には、500万円以上の借金を背負わされ、劇場のステージや個室での売春を強要される者もいた」というニュースがおそらく決め手となって、おまえいいかげんにしないと最低ランクに落とすからな。という警告に至った模様。

2005年(ランクT2)
この年、韓国が報告書リストに入っていきなりTIER1なんですけど、お隣では前年「性売買斡旋行為処罰法」「性売買防止法」が制定されており、要するに国としての取り組みが評価されるんだな、という気付き。

2007年(ランクT2) 
この年までもっぱら人身売買といえば性産業従事者に特化した書きぶりなところ、ここで"foreign trainee" つまり当時の外国人研修生が人身売買の温床になっている、という指摘がなされるように。

2009年(ランクT2) 
前年のデリヘルという単語に続いて、援助交際という単語が初お目見え。

2010年(ランクT2) 
外国人研修制度とは名ばかりで、平均すると400万円程度の借金を背負って来日している、と強い口調で非難されています(当時の為替レート、1ドル80円台なところに気を失いそうなほどの郷愁を覚える初老の私)。
北朝鮮が報告書に登場するのはこの年から。 

2011年(ランクT2)
ビザ取得のための偽装結婚や、東南アジアへの買春ツアーが盛んである、という指摘がありますが、個人的に日本の格付けが順当だと思ったのは
「2010年11月、週80時間超の残業を1年以上続けさせられ過労死した31歳の中国籍研修生を雇用していた企業に課せられたのは50万円の罰金のみであった」って読んだときでした。こういうニュースが当時、日常的にあった気がするし、なんなら今もたいして進歩していない。

2012年(ランクT2)
この年から研修制度ではなく技能実習制度ということばに代わりますが、名前が変わっただけで実態は何も変化がないことはもうみなさんもご存知の通り。2021年の記事に「ようやくアメリカに日本の技能実習のヒドさが気付かれたか」ってコメントするひとを見たりしましたが、大丈夫です、前からバレています。

2013年(ランクT2)
人身売買をなくそうとする戦いに挑むヒーロー、という毎年恒例の企画で2021年には指宿弁護士が選出されました、過去には2013年に移住連の鳥井一平氏も選出されています。という年ですが

この後の選出もぜんぶ見て思ったのは、いわゆる「先進国」においても、社会には人身売買の陥穽で苦しむひとたちがいる、彼らのために尽力するヒーロー。って選出パターンと、そもそも「人権後進国」においてはあらゆる苦難のなかで戦うしかないから戦い続けているヒーローがいる、って選出パターンのふたつがあって、残念きわまりないことですが、日本はあきらかに後者カテゴリなんですよ。
だからさあ、「ヒーローだ!」って喜ぶところではまったくないんだ。

なお、実はこの年までずっと日本の人身売買における主要プレイヤーとしてyakuzaという単語が報告書に登場していました。翌年以降、彼ら以上に国が主要課題として認識すべき、と報告書が指弾するようになるのが「技能実習」と「JKビジネス」です。

2018年(ランクT1)
最新ニュースで法務大臣が述べた「答える立場にない」コメントがちょっとした注目を集めていましたが、2018年、初めて日本がTIER1の評価を受けた時の法務大臣も上川氏です。

でね、法務大臣閣議後記者会見ウォッチャーを自称する私ですから、当時の会見を見に行くわけですよ。

日本時間の本日未明,米国国務省が,平成29年分の人身取引報告書を発表しました。その報告書において,我が国は,第1ランク,すなわち「基準を満たしている国」に分類されました。平成13年以降発表されてきた同報告書において,我が国が第1ランクになったのは初めてのことです。我が国は,これまでも,政府一丸となって人身取引に対する取組を進めてきたところですが,特に昨年1年間を振り返ると,当省所管事項に関連する分野に限っても大きな進展がありました。
まず,我が国は,これまで国際組織犯罪防止条約,いわゆるTOC条約に加入できていなかったことから,その附属議定書である人身取引議定書にも加入できていなかったのですが,昨年のテロ等準備罪処罰法の成立を受け,TOC条約及び人身取引議定書に加入することができ,人身取引対策においても大きな前進となりました。
また,同様に,昨年には,技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護を図るためのいわゆる技能実習法を施行するという点でも,大きな進展がありました。今年初めて我が国が第1ランクに分類されたのは,このような我が国の人身取引に対する取組が正当に理解された結果であると認識しています。

いやものすごく語ってはりますやん。という感想を持ちそうになりますけど公正を期すため、さらに引用しておきます。

【記者】先ほどおっしゃっていた,アメリカ国務省から発表された平成29年分の人身取引報告書において,日本が初めて第1ランクに分類されたとのことですが,それはどうしてなのか,もう少し詳しく教えてください。
【大臣】そもそもこの米国国務省が作成している人身取引報告書,その中におけるランク付けは,アメリカが独自の立場に基づいて作成したものです。その意味で,法務省として,ランク付けがどういう理由で変更されたのか承知していませんし,またそれについてお答えをする立場にはないという前提で申し上げたいと思います。

ね、法務大臣として答える立場にはない、って最新回と一貫したポジショニング。よろしいんじゃないでしょうか。
TIER1になったときにこれだけ自慢したんだから、TIER2に落ちていることは真摯に受け止め改善していきたい、ぐらい言えればもっと良かったけど。

2020年(ランクT2)
やっぱり気になる格落ち理由ですが、がんばってるのは分かる。However, these efforts were not serious and sustained compared to those during the previous reporting period. (でも、もっと出来ることが分かってるから手を抜いてる、って思っちゃうんだよねー)(雰囲気重視の訳ですまん。このあとの原文はもっと厳しい指摘に続きます)。
去年読んだときに気付かなかった視点としては、「報告できるはずの定量レポートをあらゆる機関が軽視している」という、いわゆるモリカケムーブ以降あからさまになった本邦の汚点がはっきりバレていること。ですかね。いやー恥ずかしい。

どんなことでも他人から指摘されればむッとなるのは人情ですが、US国務省による「人身売買報告書」に対する反応で、奴隷制度をいまだに引きずってる国に言われるスジアイないから。とかいうコメントを見かけると、彼らの報告書にはそうした自国の問題についても無論紙幅は割かれているわけで、彼らの頭の上のハエを追うのは彼らの仕事、一方で、われわれの頭の上にぶんぶん舞っているハエ? そんなのいないよ。って態度ほどカッコ悪イものはないよー。そう思うのでした。

……って公開してから最新版の日本語訳を試みている労作noteに遭遇。こりゃ俺よりよっぽど親切だぜ。すばらしい。すばらしい(たいせつなことだから2度)。


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