日経21.7.26社説「技能実習は速やかに廃止を」雑感
日経新聞は過去の「社説」でも技能実習について同主旨の言及をしてはいて、だから急に言い出したわけではないんですよね。今回の口調が意外に強めなのはみなさまお感じの通りですが。
21.7.26
19.8.23
17.11.1
今回の社説への個人的な感想は
・特定技能への切り替えがなかなか進まなかった最大の理由は技能実習生最大の送り出し国、ベトナムとの協議が双方の利権構造のせいで頓挫していたからですが、進展あったかね(つまり特定技能においては「中間ブローカーを入れない」が設立主意だったのを曲げることで両国の折り合いがついた、とかそういう)
・昨年暮れぐらいからずっと、ベトナムがいよいよ特定技能にGOを出すらしい、ってムードはあったのですが一向に条件が詰まりそうにない。みたいな噂しか聞こえてこなかったの
・先方国内の政争で既得権益組がなんらかのダメージを負ったのでは、ということは先日、送り出し機関大手5社に処分発表されたあたりからも推測はできた
云々(ちなみに拙者、こんどの日曜日に「週刊外国人就労関連ニュース」を書けば連続100週になるぐらいにはこの界隈近辺ウォッチ侍と申す)。
以下、この社説を読んだひとが抱く疑問の代表例にコメントしておきますのでご参考まで。これが正解、といえるわけもないのでウォッチ侍の私見ですけどね。
■経団連にもコンセンサスとれてるってことか
さあ?(いきなりそんな大きなことを聞かれましても)
ただね、技能実習制度って厚生労働省が仕切っていることになっているんですよ。一方、特定技能は「各業界団体の意向を監督する省庁がまとめる」構図になっているので、そっちのほうが良くも悪くもサステナブル。
良いのは現場を含む業界の意向を踏まえて、不足する人材の数や質についての調整が可能なところ。
悪いのは利権構造が各所にちらばっていく可能性を否定できないところ、かな。
■問題さんざん指摘されてるのに廃止にならないのはなぜ
受け入れる日本にも、送り出す現地国にも利権構造が完成しているから。
なにしろ今でこそ悪名高くなりましたけど、前身である外国人研修制度からだと40年続いている仕組みなのです。
たとえばベトナム、公式には「技能実習で日本に行くために必要な費用」は約30万円とされているところ、実態としては100万円超になる。つまりその差額が日越両国関係者のフトコロに入る。
もう一例、インドネシア。ここは日本が要求する以上に厳格な運用体制を敷いているので、技能実習生であっても論外な借金を背負ってやって来る例は聞かず。その分、観光ビザで入国して潜行、みたいなルートが多い。
などなど、国によっての差はあるので一律「技能実習なんてやめちまえ」って言われましても。という現実がある。
■廃止されたらどうなる
まず日本国内に居る40万人の技能実習生の在留資格は特定技能に移行することになります(=既定路線)。
ものすごくおおざっぱにいうと技能実習で働ける内容は特定技能に移行可能なので、大きな混乱はない・はず。
特定技能での来日には「技能実習で日本で3年働いたぐらいの技量があること」が必要条件としてうたわれており、つまり国内で3年、技能実習で働いたひとなら今でも(同じ職種なら)無試験で特定技能1号に切り替え可能なんですね。
問題は、新たに技能実習で来日しようとしていたひとたち。特定技能での来日が推奨されることになると、揉めそうではある。なぜか。
技能実習で問われるのはカネ持ってるか、と根性あるかの2点ですが(わりとマジ)特定技能は当該業種の試験に合格しないとダメなんです。
つまり人手不足の現場も、金を稼ぎたい現地も、どっちもうれしくないんですよ。試験? 年に何回あるの? 勉強すれば合格できるの? みたいな情報が概して薄いし。
■そもそも技能実習制度って何だっけ
建前は、日本の優れた制度を母国に持ち帰って活用する技術移転。
本音は、不足する労働力の調整弁。
先日ウガンダの重量挙げの選手が脱走して難民申請したい、って口走ったときに「経済難民は認められない」キリッ。みたいな声を見かけたんですけど、それ違う。正確には「本邦は経済難民の受け入れを技能実習制度を使って実施中」。つまり「技能実習生として正面から来日すればよかった」が親切かつ遵法意識の高い答え……なんですけど、技能実習制度は現地国と日本の間で協定を結んでいる国が有利なので、ウガンダから来れるかというと、難しいだろうねえ。
■じゃあ特定技能って何
技能実習制度のまま運用続けるのはさすがに無理だろ、って議論からスタートした制度なので、
・ブローカーの介在はダメ
・技術移転とかおためごかしは言わず最初から労働力として来てもらう
・入国後も受け入れた企業が責任もってケアすること
・転職だって可能
・家族滞在も(特定技能2号になれば)可能*
など、設計時点から考えられています。じゃあさっさとそれでやればいいじゃん。って話ですよね。
だからみんなやろうとしてるんだけど、なかなか移行進まないんですよ。
理由はここまでに書いた通り。
*特定技能2号は1号を5年終わったら移行できる在留資格で(いきなり2号の道も、そのうち出来る予定ですが)制度上は存在するけどいまのところ対象者はいない。技能実習制度だといつまでたっても家族は呼べないので、それに比べればマシ
■移民
世界的な定義では「3カ月から12カ月間の移動を短期的または一時的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別するのが一般的です」(国連経済社会局)ということなので、技能実習生は本来バリバリ移民なわけですが、本邦は外国人労働者を移民とは呼ばないことになっておりまして、事ここに至ってもそうした議論にはなりそうもなく。
そんな呼び名なんてどうでもいいじゃん、って考え方もあろうかとは思うのですが、移民って呼びたくないのにはそれなりの理由があるわけですよね。
移民を前提とした社会設計になっていない、とか国民の意識が受け入れられそうもない(と政府に思われている)とか。
どうせ技能実習のラベルを特定技能に貼り変えるだけだろ。
って顛末にしないためにも、正面からの議論が必要だと思うんですけど-これ言うとまた話がややこしくなるんだよな。ま、今日はこのぐらいでいいですか。