週刊「外国人就労関連ニュースまとめ」(20.10.4-20.10.10)
先週更新をナイジェリア映画『オロトゥーレ』(2019)を見たよ、という日記で始めたのに味をしめて、今週も別の映画『ジョイ:闇と光の間で』(2018)コメントで幕をあけることに。両親がイラン国籍のオーストリア人という監督によるフィクションです。
『オロトゥーレ』はナイジェリアで売春によって生計を立てている女性たちが、ヨーロッパに行けば今よりもっと大金を稼ぐことができるはず、だから借金を背負ってでも私は行きたいの。という話でしたが、この『ジョイ』はナイジェリア出身の売春婦たちがオーストリアでどんな風に暮らしているかを描いたもの。つまり精神的姉妹関係にある作品です。
主演女優が映画タイトルと同じジョイというファースト・ネームを持つのは偶然らしいですが、彼女も、彼女の妹分を演じた女優もオーディションで見出されたとは思えないほどのリアリティを全身の毛穴から発散していて、あとオーストリアのなまはげことクランプス、ナイジェリアの現金シャワーなど、異なる文化圏の人間には奇異に映る光景が絶妙なタイミングで挿入され、「映画を見る」という体験の快楽に溺れてしまう。これや、これが映画やで。
……と興奮したのですが(後出しで書いておくと、ロンドン映画祭やヴェネツィア国際映画祭などで高評価を得ているので俺ひとりがコーフンしているわけではない)、もうちょっと落ち着いて考えるに、ナイジェリアからウィーンに送り出されてきたばかりの女子オークション風景が作中で描かれていましてね、そこで付く金額が380万円。
映画冒頭、とある女子が背負っている借金への言及あり、そっちは750万円。そうした数字を淡々と出してくる迫力が、作品の質を担保してるところがありますね。
そういえば(我にかえって週刊「外国人就労関連ニュースまとめ」なことを思い出した顔で)ベトナムが国として定めている技能実習の送り出し手数料は40万円なんですけど、実勢価格はその3倍程度といわれていて、なるほど同じ地獄を選ぶならまだ技能実習のほうがワンチャンある分……みたいな言いぐさが成立する星だな。って地球規模で他人事の顔をしたくなる連想が働いたのでした。
なお、human traffickingの定義をあらためて紹介しておくと-反人身取引サミットという場において、USの家事労働者支援団体のひとが発言したという一節ですが-こんな感じ。
「人身取引と聞くと、身体的暴力や性的搾取など最悪のケースを想像する人が多い。実際にそういったケースもたくさんあるが、仕事内容にうそがあったり、借金などを理由に強制的に働かされたりすることもれっきとした人身取引だ...そういった人たちは、自分が被害者であるとも気づかず、逃げることもできないと黙ってしまう。でも、救う手立てはある」
これ、2か月ぐらい前にnoteに書いているので、前後の文脈などはそちらをご一読ください。
■さて今週。そんな技能実習制度からスリップしてしまったひとたちのニュースが多かった印象
技能実習ビザで入国したが、在留期間後も不法に国内に滞在した疑い...食事宅配サービス「ウーバーイーツ」でアルバイトをしていた。6日午後、「ウーバーイーツの人たちが路地でたむろしている」と同署に相談があり、駆け付けた署員が同市中央区の路上で2人に在留カードの提示を求めたところ、容疑が浮上したという
今年8月、三重県川越町の堤防道路でベトナム人技能実習生の男性に包丁で切りつけるなどの暴行を加え、殺害しようとしたとして、カンボジア人技能実習生の男7人が逮捕されました
以前勤めていた奈良県の技能実習先で「給料が低い」などと不満を募らせ、失踪したとみられることが7日、捜査関係者への取材で分かった
■あと、比較的今週注目されていた次のトピックも同類項。
今回の国連部会の見解の重要な点は、デニズさんとサファリさんのケースのみならず、難民その他の外国人に対する入管の対応自体の抜本的な見直しを求めていること――10月5日の会見を主催した有志の弁護士グループ「(国連恣意的拘禁WG入管収容通報弁護士チーム)は強調する。
ここで採り上げられている事象も、それに対する主張も、違和感ないんですが、私が個人的に気にするのは、「国連部会の見解」なるものの原典を読ませてくれ、という一点なんですよね。
国連の作業部会(WG)が、「国際人権法に違反している」との意見書を日本政府に送ったことが明らかになった。...支援してきた駒井知会弁護士は5日に都内で開かれた記者会見で、「WGが日本の入管収容を明確に国際法違反であると指摘したのは初めて」と述べた。
意見書を送ったらしい。って伝聞だけじゃなあ。
■その他、こんなニュースがありました(おい、序盤の映画感想文に力を入れすぎて、へなへなになっとるやんけ俺)
シンガポールは独裁国家云々って声が集まると思うんですけど、たとえば台湾における外国人家事労働者の虐待は看過できないレベルで存在するし、もちろん本邦もアレだし、国が。ではなく、人間ってやつは……な気がしたニュース。
人がいないから安い人材を海外からもってこようとしたのにこう金がかかったら無理だ。って内容だったんですけど、技能実習のタテマエをかなぐり捨てすぎやろ、といういつもの感想。
“外国籍の者についても,日本国籍の者と同様に夜間中学における教育機会を確保することが求められます”って文科省が言ってるので(夜間中学の設置・充実に向けて【手引】第2次改訂版)いいんじゃないでしょうか。
緑茶POP 「日本人はこれをよく買っています。なんで買っているのかわかりません」の意味が予想通りだったし、答え合わせ以上の記事になっていて安心しました。
■今週の最後、これも何度も書いてきたことではあるのですが。
世間の相場感マジでこんな感じだけど、業界標準とされている日本語能力試験JLPTでいうと、これN3なんですよ(N1からN5まであっていちばん難しいのがN1)。でね、それはTOEICでいうと550、英検でいうと2級ぐらいなの。
ねえ、日本人の高卒時TOEICスコア平均が420そこそこなときに、日本人が就きたがらないブルーワーカーを海外からの人材に求め、かつ日本語力をTOEICでいうと550ぐらいないと。って言うの、どう考えても図々しくない?
民間の日本語試験主催者勤務サラリーマン俺、そう思う。