町屋「カラビナ」(閉店) ーデート前には禁物。燻し覚悟の暖炉喫茶ー
「町屋に行くなら すごい雰囲気のいい喫茶店があるよ」
そう前々から聞いていた。
そこまで言うならよほどの名店なんだろう。期待が高まる。
仕事で町屋に寄ることがあったのでランチを兼ねて同僚と足を運んでみることにした。
都営荒川線沿いの道を少し奥に入り原稲荷神社の隣にその店はあった。
カラビナとはご存知、登山に使う器具の名前で、その名を店名につけたことからもわかる通りマスターは山とコーヒーを愛してやまない方らしい。以前知り合いのディレクターが訪れた際、山の話しをふったら止まらなかったそうだ。
入口のドアが完全にしまらないように敢えて添え木が差し込んである。
店に入ったとたん、その理由がわかった。
暖炉だ。
空気がこもらないようにわざとドアの隙間を作っているようだ。
喫茶店に暖炉。こんな贅沢な空間があってよいのだろうか。
静かな店内。まるで本当に雪山の山小屋に来た感覚になる。
カウンター奥にはカップがずらりと並ぶ。
奥さんが調理、旦那さんがホールといった配置だ。
旦那さんは淡いダンガリーシャツとGパン。とても声が小さい。
ランチとして入ったので思いっきり食べたかったのだが、
食事のメニューは クロワッサンサンドにトーストぐらいしかない。
丸太に書かれたメニューとしばらくにらみ合った…
困った 非常に困った 午後は長いぞ…
そして私は大食漢だ。
仕方なくクロワッサンサンドとトーストをダブルでいただけるセットを注文した。
後からわかったことだが、
サイドメニューはいずれも調理中にコーヒーの香りを壊さないもの、として
選ばれているのだそうだ。
食べ始めた頃、ぞくぞくとお客がやってきた。
厚切りトーストがおばさま方の軽快なトークをより引き立てていた。
腹5分目の状態でそろそろ会社に戻ろうかと思ったところで気がついた。
自分が とても におう
燻されて 燻されて 髪も服も鞄も全て匂う。
これはまいった。
大切な人とのデートを控えている日には カラビナはやめておいた方がいいかもしれない。
ただ…もう燻されることは出来ない。
今はなきカラビナの燻技を懐かしむ。
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