36 探偵の解雇
もしも地方に不倫相手がいて、それが妻にバレ、さらに妻が探偵まで雇っていたら…
少しでも後悔や反省の気持ちが湧き起こったのなら…
「探偵まで雇わせてしまうようなことをして悪かった。心配をかけたけどもう関係は絶って夫婦関係をやり直したい。申し訳ない」
嘘でも謝罪し、頭を下げるだろう。
だが夫から見える世界は違う。
妻が自分の不倫を疑い、盗み見た連絡相手が誰か知りたいあまりに、秘密裏に探偵まで雇ったのに不発に終わった。たまに手をつける地方の不倫相手のことはバレてしまったが、頻度高く逢瀬を重ねる都内の女のことはバレていない。
「危なかったけど、地方の女のことしかバレてない。良かったー!」
胸を撫で下ろすばかり、わたしへの謝罪の言葉すら浮かばなかったのだろう。
疲れ果て、その日の話し合いを終わりにしたわたしの背中に、とってつけたように「悪かったよ」と夫が不機嫌そうに言った。
都内の女の存在がバレてないことに昇天している証拠に、夫は翌朝から意気揚々と子どもたちに接した。
遊びに行った遊園地でも、それはそれは楽しそうに過ごす夫…。いい父親を演じきっている。
わたしは昨晩の話し合いのあと、探偵のリーダーにLINEを入れていた。
「探偵を雇ったことが夫にバレました。一旦解約すると夫には伝えてありますが、引き続き調査をお願いします。建前上、夫の前で解約のお電話をかけたいので口裏を合わせて頂きたいです」
「ご協力します」とすぐに返答が来ていた。
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