57 交渉成立、切れる緊張の糸
あとでA子から聞いた話では、合意書を出したあたりでカフェは閉店間際だったらしく「まもなく閉店です」と各席に回っていたらしい。
A子はギリギリまで居座ったが、再度退席を告げられた。だが、異様な雰囲気の我々の席へは行かず、先に看板をしまったり、黙々と閉店作業に勤しんでくれたそうだ。
余裕がなかった証拠に、わたしはそのような周りの状況には一切気付かずにいた。
話をして、金額交渉、同意書にサイン…途中にはZがうつむいていたり、たまに泣いたり、コーヒーを一口も飲んでなかったり。
目の前のことで精一杯だった。
二通準備した合意書にサインをさせて、すべてを終えてカフェを後にした。すっかり小さくなったZとはカフェの前で別れた。
そこへ駆けつけてくれたA子の胸にわたしはなだれ込んだ。
「サインをもらった。言い値で合意できた」
「よくやったよくやった。いま念のため夫さんに連絡しないかどうか、B子がZを尾行してる。とりあえず携帯触るかどうかだけチェックしてくれてるから」
B子も仕事終わりにここまできて、閉店間際のカフェの前で中の様子を伺いながら待機してくれたそうだ。
A子が閉店時間で店を出てからは2人で店の外で待っていてくれたのだ。