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42 新たな探偵の調査初日
探偵を変えてからの初めての調査の日。
この日は「残業」つまりZの家へ立ち寄りの日。
通常なら20:00にはZの家に入るはすが、今日はなかなか現れない。
現場リーダーからは随時LINEが入る。
「まだ現れません」
トラッキングができない今、どこにいるのかが分からない。子どもたちの寝かしつけまでの間、やきもきするあまりワインがどんどん減った。
寝室で寝かしつけの時間は、携帯を見ることができず、さらに飲み過ぎたせいでわたしはうっかり子どもたちと一緒に寝てしまった。
ハッと目を覚ました22:00。
「二人一緒に帰宅して、女の家に入りました!このまま現場で出てくるのを待ちます」
LINEを読んだ時はおもわずガッツポーズ。
史上最大の矛盾したガッツポーズ。
24:00には現場リーダーから「いま出てきてタクシーに乗りました。本日の調査は終了します」との報告。
同時に夫から「帰宅中」とLINEが入った。
そしていつもどおり24:30。玄関が開く音がした。
こうやって何年も何年もZの家からうちに帰ってきていたのだ。
この虚しさ、怒り、哀しみの入り混じった感情は世界のどんな言語でも表現のしようがない。
心の拠り所は、二人一緒の入り写真と一人で出てきた証拠写真が押さえられたことだ。
報告書用に撮影した写真は通常、数日後に紙媒体で渡される。しかし、さすが人気の探偵事務所は気が利いている。
「こちら出てきた様子のご主人です。疲れ切った様子がものすごかったので送ります」。
送られてきた写真にはタクシーを待つ夫が写っていた。肩を落とし顎が上がり魂が抜けたようなその憔悴っぷり。見たことのない姿に思わず笑ってしまった。人気の探偵のリーダーは、この事態でもブラックジョークが効いているのだ。私は救われた。