51 土壇場で人はシラを切るもの
「今日はお話ししたいことがあってお宅までお伺いしました。お時間いただけますか?」
「まだ仕事が終わってないんだけど…何の用かしら?」
「わたしがなぜ来たのか察しがつきませんか?」
「うーん、なんだろう。わざわざここまで来たから大切な話よね?なにかな?」
「本当に分かりませんか?」
「またご主人のこと?最近は少し仕事で絡むこともあるけど〜」
「とにかく大切なお話しなので、申し訳ございませんがお仕事が残っていても1時間ほどお時間をください」
開口一番シラばっくれるとはいい度胸だ。
渋々付き合う雰囲気を出されながらも一番近いファミレスへ行くことになった。B子が店内の間取り図まで描いてくれたファミレスだ。
わたしを突き飛ばしたA子は、Zには見られていなかったらしく、存在を消して尾行に回った。話し合う場所に入れたら、A子は近くに座る手筈だ。
あいにくファミレスが満席で入れなかった。するとZが駅ひとつ歩いたところにあるカフェを指定した。
少し離れたところにあるカフェまで歩く道すがら、事態の深刻さにようやく気づきだしたZはすっかり黙りこくった。
不倫相手の妻が家を探り当てて家の前で待ち伏せしていたのだ、そりゃ黙る。
カフェに着き、注文を済ませて席についた頃には、最初のテンションは消え失せ、うつむき加減で肩を縮めるZがいた。