21 夫のトラッキングに成功
夫が出張へ行く前のシャワータイムがやってきた。
テレビをつけて子どもたちを番組に釘付けにした。わたしは夕飯作りにいそしみ、いかにも手が離せない様子を演出した。
そして夫がゆったりと脱衣所へ向かった。
ササッと夫の携帯を台所へ移動し、徹夜で練習した順序で位置情報の共有をONにした。
画面の指紋を拭き取り、元あった場所に携帯を戻した。
心臓が高鳴り、相変わらず脇から汗が流れる中、何食わぬ顔をよそおい台所で料理の続きをした。
鼻歌混じりで戻ってきた夫はすぐに一回携帯をチェックしている。バレやしないかと心臓が飛び出そうだ。夫はそのまま携帯を置いて着替えなどをしに行った。「バレてない」と確信した。
悪いことをしているのは夫なのに、自分が犯罪者にでもなった気分で、胃が痛かった。
夫を送り出したあと、急いで携帯で位置情報を確認した。
「デバイスを探す」ボタンを押すと夫の携帯の場所が表示された。
A子の検証からわたしが位置を確認しても夫の携帯に通知などは飛ばない。飛ばないはずだが緊張が走る。
夫は家から離れて駅へ向かう。
空港へ向かうはずだが、空港とは別の方へ電車は走った。そして向かった先は「利用頻度の高い場所」からA子が割り出したマンションだった。
足取りを掴めて嬉しい気持ちと、やはり近くに不倫相手がいることが確実となり、産まれて初めて味わう感情は言語化できないものだった。
胃は痙攣し、その日から耳鳴りが止まらなくなった。