『俺の家の話』の話 第二十八試合
『木曽さん、この場合って僕どうすれば良いですか?』
じゃ自分が大丈夫か?みたいな感じで近付くんでゆっくり立ち上がりましょうか?
『ありがとうございます!』
世阿弥マシンとの試合後の撮影でのプリティ原役の井之脇海さんと私の会話。
その後試合に勝利すると逃げる様にリングを飛び降りるマシン。
私とプリティは一歩、二歩とそちらに近付くと唖然とした顔で立ち尽くし思わず顔を見合わせた。
『折角だから映りにいきましょう!』
冒頭の会話の後に爽やかに笑いながらこっそり私に囁いてくれたのだ。
おい、渡瀬!あんな良い人いないぞ!
井之脇さんと初めてお会いしたのはもう半年前になるだろうか。
道場で初めて練習をした日。
「爽やかバスケ部お兄さん」それが初対面の印象だった。
何でもトランスジェンダーの役をやってピアニストの役をやって今回はプロレスラー。
なんて振り幅!きっと大変なんだろうなぁと。
井之脇さんもマット運動、ロープワークと基本から練習。
プロレスシーンの内容が決まる前から基礎練習を積み重ねていた。
実際にやる技の練習だけでなく本当に練習生が最初から始める練習から。
最初から直ぐに出来た訳ではなく、本当に一回一回の練習で少しずつ少しずつ進歩していく感じだった。
「今日はこれを出来る様になりましょう」とか「ここまで出来たら次で絶対完成しますね!」とか。
当然ロープワークでは背中を痛がっていたし、初回のブリさん引退試合で見せたタッチを受けての華麗なジャンピングインも何度も何度も練習を重ねた賜物。
初回からずっとスタッフさんや我々に見守られての練習。
出来ないことを人に見られるって結構嫌だったと思う。
エプロンでロープを掴んでいざジャンプ!って時に「やっぱ怖いなぁ」ってなったり、「自分のタイミングで行っていいですか?」って言いながら呼吸を整えたり。
そのひたむきさは心から「ガンバレ!」って応援したくなった。
時間の許される限り練習を続けた井之脇さん。
ある時は早朝から夕方まで撮影し、夜の撮影までの空いた時間に練習とか!
そんな状況でも嫌な顔一つせず練習を続けた。
いつ間にかジャンピングインも普通にこなせる様になった井之脇さんの姿を見た時、練習に関わったレスラーや私は思わず胸が熱くなった!
そして俳優としてのカッコよさね。
「お帰りなさい、ブリさん」ってあのシーンは優しい声に思わずキュンとしたよね。
私やレスラー陣とも気さくに話してくれる優しさと圧倒的な爽やかさ。
そんな井之脇さんとも共演出来て、『プリティ!プリティ!』とギブアップ聞くシーンが出来たのは一生の思い出だ。
私は声を大にして言いたいよ!
さんたまプロレスはスーパー世阿弥マシンだけじゃない、プリティ原もいる!
そんな俺の話の話。