キシリ徹はなぜCMソングを作っているのか? -2.CMソングを好きになって作るまで-
(昨日からの続きです)
◆そもそもなぜCMソングを作ろうと思ったのか?
大きく分けて、
1.「そもそもCM自体が好きだった」
2.「雑食な音楽的趣向からCMソングにたどり着いた」
3.「CMソングの”ポップとデザイン”の凝縮性」に魅了された」
ことがきっかけです。以下にまとめます。
●1.そもそもCM自体が好きだった
”CM・広告”自体が好きで、美術館などでのCM・広告系の企画展を見に行くことや、
youtubeに上がっている「昔のCMぶっ通し3時間」みたいな動画をひたすら見たり、夜中にサントリーウイスキーのCMを見ながらサントリーウイスキーを飲む、などをやりながら20代前半を過ごしていたほど、そもそもCM・広告自体が好きでした。
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●2.雑食な音楽的趣向からたどり着いた『のこいのこ大全』と『小林亜星CMソングアンソロジー』
程度を問わず、作曲をする人は、ある程度たくさん音楽を聞いているものだと思います。
私も例外ではなく、10代前半から人並み以上には、とにかく雑食に音楽を聞きまくり、
また全く違うジャンルの音楽同士に共通点を見出し、自分の曲に混ぜ込むのが好きでした。
プログレッシブロックとクレヨンしんちゃんの主題歌集のアルバムが愛聴盤の時期は、それらの要素を合わせた曲をなんとか作ろうとする、というような音楽との接し方が常で、以前は今よりもその傾向が顕著でした。
その雑食な音楽的趣向から、「とにかく聞いたことのない音楽」を求める過程で出会ったのが、『のこいのこ大全集』というアルバムです。
のこいのこ氏は、CMソングの女王として、CMソング好きにとっては知らない人はいないほどの存在です。
CMソングについてそこまで考えたことがない・意識して聞いたことがない方でも必ず、のこいのこ氏の参加作品を耳にしているはず。
代表的な作品をいくつか上げます。
アルバム『のこいのこ大全』は、2006年に発売された、のこいのこ氏の、主にCMソング周りのワークスをまとめた待望の1枚です。
2013年に初めて『のこいのこ大全』を聞いたとき、主に10秒~30秒・長くて1分の親しみやすいCMソングが50曲以上(!)収録されている、作品としての珍しさ・面白さにハマりすぐに愛聴盤となりました。
そこからCM・CMソングだけではなく、「CMソング集のアルバム」を好きになり、片っ端からレンタルや購入し聴き漁りました。
その過程で『のこいのこ大全』を超える愛聴盤となったのが、『小林亜星CMソングアンソロジー』です。
昭和~平成までのアニメソング・CMソングに多数のヒット作を持つ、小林亜星先生のCM仕事をまとめた1枚で、CMソングだけで実に62曲が収められています。
『のこいのこ大全』の収録曲は、一般的にイメージされる”CMソングっぽいCMソング”が多い印象ですが、
小林亜星先生のCMソング集は、ジャズ・フォーク・アカペラ等、ジャンルや曲のタイプが多岐に渡っており、一枚のアルバムに色んな曲が収められているカラフルさの虜になりました。
CMソングの自由さ・奥深さを知り魅了された一枚で、小林亜星先生のCMソングとの出会いが、私たちのCMソング好きを推し進めた大きな要因です。
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●3.「ポップとデザイン」の凝縮性
CMソングは、性質上「商品の利点などの広告宣伝要素」を曲中に含める必要があります。
どのようにすれば商品の利点が伝わるか?という、”デザイン的な問題解決”性が求められるのが、通常の作曲と違う点だと思います。
更に、多くの人に親しまれる優れたCMソングには、口ずさんで楽かったり・心に溶け残ったり・色々な意味で頭に残る「普遍的な(広義の)ポップ性」が同居しています。
そういった”制約”や”課題”を抱えながら、曲としての起承転結を作り、数十秒~1分程度にまとめられている優れたCMソングは、もはや作曲としてある種”離れ業”であると、(自ら作曲してみてより強く)感じました。
まとめると、
・デザイン的な問題解決性
・普遍的なポップ性
を含めて、数十秒~1分程度に、曲としての展開・起承転結が込められている。
その「ポップとデザインの凝縮性」がCMソングの魅力だと思います。そこに魅了されてCMソングを作り始めようと思いました。
余談ですが、やなせとタニケンが18歳のときに組んでいたバンド『荒療治』では、13分半もある無茶苦茶な曲をやっていました。
思い返すと稚拙ながら良い曲ではあったと思うのですが、当時は、自分たちの雑食性に対してやりたいことをまとめるのに、13分半を1曲にしないと出来なかったのです。
現在、やりたいことが1分程度でまとめられるようになったのは、なんだか不思議な気持ちで、作っていて楽しいです。
(第3回に続く)
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(※CMソングの”長さ”についての補足※
CMソングには、数十秒の曲も多いですが、3分以上ある一般的なポップス的な尺の曲もあります。
そういった曲は、数十秒のサウンドロゴ部分にAメロ・Bメロを足していったり、逆にもともと3分以上ある曲をCM用に切り出しているパターンもあります。
いずれのパターンも、CMでは数十秒の曲が、アルバムではフルで聞けるのが好きなのでキシリ徹の楽曲では3分以上の曲もあります。
そのような曲も、上記のデザイン的な問題解決性・普遍的なポップ性の2点は含めた曲作りとなっています。そういうのが好きなので
もしCMだったら、どの部分がCMに使われているかな?と想像して聞いていただくのも楽しいと思います。)