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一人百花 01_ホトケノザ

仏像を安置する座を仏座(ぶつざ)という。その形式のヴァリエーションは、須弥座や獅子座など様々あると思うが、中でも蓮を象った「蓮華座」がよく見られる形ではないだろうか。

ホトケノザは、葉の形が「蓮華座」に似ているシソ科の植物である。それゆえ、葉の上に咲く花は仏様の姿に見立てられる。喩的な認識の連鎖が極めて豊かである。春の七草にもホトケノザはあるが、こちらはコオニタビラコ(キク科)のことであり、シソ科の本種は食べられないらしい。しかし、子どもの頃に吸った花の蜜はほのかに甘く美味しかった記憶がある。

野草の名前(和名)は、それに似ているもの(仏閣・仏具、歴史上の人物の武具、昔の生活用品など)の名が付けられることが多く、その名前の由来を通した野草の姿は、私たちを中世や上代へと導く。日常にそういう世界に通じる小道があるのは驚きだ。

ホトケノザは、3〜6月の本州の市街地や畦道でよく見られる植物であり、特別珍しいものではない。と思っていた。

以前、仲の良い俳人と昼にコンビニエンスストアに立ち寄った際、コンクリート敷の駐車場の影の片隅に一つだけ野草が生えていた。あまりに小さくささやかであったため、私をはじめ誰も気にしていなかったように思う。しかし、その俳人は「あ、ホトケノザ......」と即座に反応したのである。そのとき私は、その方の、あるいはその方を通して俳句が持っている命への敏感さや、微細な世界への自分自身の展き方など、何か大切なものを実感したのだった。

今日も用事を済ませたら散歩に行こう。

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