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【ハードボイルド】カレン The Ice Black Queen 第九話

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♦︎あらすじは第一話をご覧ください。

血染めのエミリ

 やはり変だ。カレンの話はどこかおかしい。

 病室のドアが開き、警部補のしかめっ面が俺を呼んだ。廊下に出る。警部補が手振りでドアを閉めろと合図した。カレンに聞かれたくないらしい。

「あの女の娘の件だが」
「早いな。もうなにかわかったのか。警部」
「エミリ・フィツジェラルド。年齢は十七歳。補導歴がある」
「補導歴だと?何の罪なんだ」
「暴行と傷害。所轄の警察暑からの情報によると、エミリはプロの格闘家だそうだ」
「なんだと」
「プロと言ってもな。闇の地下格闘技のだ。違法賭博の一種さ。探偵なんだからあんたも知ってるだろう」

 知っている。大抵は地元のギャングが仕切っている。しかし。

「エミリはまだ十七歳の少女だぞ。地下格闘家なんて」
「かなり強いらしいぞ。何人もの男どもを病院送りにしている」
「まさか…」
「ニックネームは"血染めのエミリ"だとさ。確証が出たことはないが、対戦相手が死んだ試合もあるようだ。確証は無いがな」

 にわかには信じがたいが、頷けるものがないでもない。俺を痛めつけた二人組の大人の男たちを撃退したのはエミリだろう。

「カレンはそれを知っているのか」
「さあな。あんたが聞いてみてくれ。こっちは一刻も早くエミリを見つけなければならん。ああ、それからな、あの女の元亭主のアイクは三ヶ月前に死んでいる。所轄が裏を取った」

 あることに気づいたが言わなかった。俺がわざわざ指摘しなくとも、この警官はとっくに気づいている。警部補がさらに苦い表情になった。

「しかし、悪い女だな。生い立ちもだが、自分の都合で、ギャングとはいえ、世話になった亭主も、我が子も捨てるなんて」
「聞いていたのか」
「途中からな。自分がしてきた行いを何とも思っていない。お上品に澄ました仮面の下には冷酷な悪女の顔があったというわけだ」
「それは…どうかな。俺はそうは思わない。見解の相違だな。残念だよ。警部」
「目を覚ませ。冷静になれよ。あの女はあんたが思っているような人間じゃない。そういう人間どもを俺はたくさん見てきた。そいつらは他人を利用するだけ利用して、用済みになった途端に捨てるんだよ」
「忠告は聞いておこう。だとしてもカレンは大切な依頼人なんだ」
「ふん。せいぜい気をつけることだ。さもないと、油断してるところを後ろから刺されるぞ」
「わかった。もういい」

 俺は、カレンを自宅へ送り届けると申し出た。警部補は何か言いかけたが、自宅へ戻る前に警察へ寄ってくれと言っただけだ。押収したカレンの拳銃を返してくれるという。

「護衛は付ける。警察が一緒にいるところを襲ってはこないだろう」
「それはどうかな。警部。婦人警官に化けて紛れ込んでいたぐらいの相手だから、わからんよ」
「その手は二度と食わんぞ。警察を舐めるな」

 警部補と別れ、病室へ戻る。カレンが俺を見つめてくる。が、なにも言わなかった。今、なにを聞いたとしても、彼女は本当のことを、本心を言わないだろう。今のカレンはそういう目をしていた。

 自宅へ戻る許可が出たのを伝えたら、カレンは落ち着き払った顔で立ち上がった。


第十話へ続く

⭐️R18ジャンル多めの作家兼YouTuberです
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貴島璃世🖋️作家༒レーベル【愛欲書館(官能)&蜜恋ロマンス(TL)】主宰
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