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【ハードボイルド】カレン The Ice Black Queen 第十三話

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ガルシア

 七番街の外れ、これから俺が会う相手はそこのビルの二階に事務所を構えていた。ビルの正面のパーキングエリアにマスタングを停める。

 きちんと手入れをされているとは言い難い階段を上り、二階へ。『ガルシア&サンズcorp.』と金色の文字で書いてあるドアをノックする。しばらく待ったが応答がない。アポイントの時間は過ぎている。もう一度ノックする。誰もいないようだ。試しにドアノブを回したら、開いた。隙間から中を伺う。事務所の灯りはついている。あまり広くない。その時、すすり泣きのような声が聞こえた。

 ドアを開けて部屋の中へ。ベージュのスーツの中年男が床に倒れている。壁ぎわでへたり込んで震えている若い男がいた。俺はそいつに声をかけた。

「ガルシアさんと会う約束があって来たんだが。何があった」
「あ、ああ! あなたは?」
「俺は探偵だ。君は?」
「僕はここの事務員です。ジム・バクスターです」

 倒れている男のそばにしゃがむ。死んでいると思ったが脈はまだあった。鼻筋が通ったハンサムな男だ。

「この人がガルシアかい」
「そうです」
「バクスター君。もう救急車を呼んだか」「ま、まだです。気が動転していたので」
「だったら早く呼べ」

 よろけながら立ち上がった青年が電話に飛びついた。ガルシアの腹のあたりが血まみれだった。

「それで、何があったんだ」
「僕が事務所のドアを開けると男がいたんです。その男とガルシアさんが揉み合っていて、驚いた僕が大きな声を出したら、僕を突き飛ばして逃げたんです。ナイフを持っていた。ち、血がついたナイフでした。僕は、ああ!」
「わかった。もういい。一つだけ教えてくれ」
「何でしょう」
「そのナイフを持った男は君の知っているやつか」
「え、ええ。何度か見たことが。でも誰なのか知りません」

 殺そうとしたが、この青年が来たから逃げた、というところか。倒れている男がうめいた。かろうじて意識はあるようだ。

「ガルシアさん。聞こえますか」
「う、うう」
「あなたを襲ったのはロペスの手下ですね」
「そ、そうだ」
「なぜです。なぜあなたが」

 ガルシアは答えない。俺の声は聞こえているはずだが。質問を変える。

「俺はカレンから依頼されて動いている探偵です」
「あ、ああ……」
「あなたは離婚したカレンと、よりを戻したかった。違いますか」
「……」
「だからこの前、カレンに会いに行った」

 俺がカレンの部屋を訪ねたとき、先客のものらしきタバコの匂いが残っていた。この事務所も同じ匂いがする。ガルシアはヘビースモーカーらしい。

「元サヤを狙っているのは未練があるからというよりも、元妻の金が目当てなんですよね」
「うるさい。早く救急車を呼んでくれ」
「もう呼びましたよ。あなたの事業はうまく行っていない。その穴埋めをカレンの金で。カレンがうんと言わないから、パートナーのロペスに、カレンを脅してくれと頼んだ」
「……」
「だからロペスは手下のケントにライフルでカレンの部屋を狙撃させた。脅せば自分を頼るだろうと目論んだ」
「もう何も喋らんぞ」
「ロペスの手下どもに俺がやられたのも、俺がカレンのそばにいるのが邪魔だったから」
「知らん。弁護士を呼んでくれ」

 わかりやすい男だ。答えないのはイエスと言っているのと同じだということを知らないようだ。

 遠くの方から救急車のサイレンが聞こえてきた。放心状態のジム・バクスターへ、俺が行ったら警察へ知らせろと言い聞かせる。

 もうここには用がない。聞くべきことは聞いた。ガルシアはジムに任せよう。事務所を出た俺は、階段を降り、マスタングに乗り込んだ。


(続く)


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貴島璃世🖋️作家༒レーベル【愛欲書館(官能)&蜜恋ロマンス(TL)】主宰
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