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何処とも知れぬ場所に在る"キャバレー・ヘル・パラダイス" 広いホールには大きな丸テーブルが並び、高い天井からはきらびやかな巨大なシャンデリアが下がっている。 そこに寛ぐタキシードやイブニングドレスに身を包んだ紳士と淑女。 流麗なストリングスを奏でるオーケストラをバックに妖艶な歌姫が気だるげに歌うジャズナンバーの数々。 ハスキーな声が歌うのは誰も聴いたことのないナンバーだった。
目が覚めると知らない部屋にいた。広いベッドの上にいる。どうやらラブホテルのようだ。昨日の酒が残っているらしい。まだ頭がフラフラした。 横を見ると女がいた。むこうを向いて眠っている。誰だ。誰なんだ。 …ああ、頭がいてえ。 昨夜はハロウィーンだった。俺はドラキュラのコスプレをして仲間と一緒に街に繰り出した。魔女のコスプレをした女たちをナンパし、どこかの店で酒を飲んで騒いだところまでは覚えている。
「ただいま帰りました。わたしです」 玄関でか細い声がした。壁に掛かっているカレンダーを見る。そうだ。去年と、その前の夏も全く同じ日だった。 夏が逝く頃。暑かった夏が終わろうとしている。 なぜ驚くのだろう。忘れた振りをしているだけということは自分でもわかっているはずなのに。 来客用のチャイムが鳴る音も、鍵の掛かったドアが開く音もしなかった。でも確かにきみの声だった。愛しいきみの…優しい声。 震える膝を押さえて玄関に行ったら、花柄のサマードレスを着たきみが立っ
彼がはしゃぎ過ぎた理由は、久しぶりの飲み会だったせいもある。二次会から三次会のバーへ。酔っぱらった彼がふと気づいたら、時刻はすでに十一時を回っていた。 「やべ。もうこんな時間か。俺、帰るわ」 「私も。お先に」 一緒にいた同僚たちが慌ただしく、まるでさあっと潮が引くように一斉に帰ってしまった。 俊介(しゅんすけ)も急に白けた気分になる。彼を含め、残った面子もだらだらと帰る支度を始めた。 バーを出るとさらに人がいなくなった。残ったのは彼と木野優紀だけだ。彼女は彼と