不動産買取の社会的意義について考える
こんにちは。不動産鑑定士の岸間紅樹と申します。
本日は私が行っている不動産の買取再販業について、ちょっと踏み込んだ私見をつらつらと述べさせていただければと思います。
買取再販との出会い
実は私自身すこしだけ買取再販のベンチャー企業に勤務していた期間があります。
その会社に入社する前は鑑定士だし、正直業界に対して高を括ってました。
ですが入社してみると、会社の社長はとんでもないキレ者。頭が良く、経験に基づいた知識が膨大にあるため、マジで圧倒され続けてました。心情としては「え、俺鑑定士なのに、不動産のこと全然知らないじゃん。。。」みたいな。
それでも数ヶ月経つと段々と業界のことや、色々な知識がついて成長を感じる日々でした。営業職って日々色々な人の話を聞いたり、意見を交えたりするので、教科書上の勉強と成長スピードが段違いな気がします(単に教科書を読むのが苦手な僕がバイアスかかってるだけかもですが)。
買取業のビジネスモデル
不動産の買取再販事業は、簡潔に言うと安く買って高く売るです。基本はこれ。もちろん様々な事情により高い値段で買うケースもありますし、逆にあんまり安すぎると買えないので、あくまで適正な範囲でです。
買った後の売却までの道のりは会社によって様々です。リノベーションやリフォームしたり、役所との折衝を行い行政上の手続きを行うことで価値を高めたり。収益物件だったら、テナントの賃料を上げてバリューアップしたりします。もちろん、何もせずにそのまま転売するケースも少なくないです。
ちなみに売れずにそのまま在庫を抱えて赤字になるケースもあり、業界の隠語でシコったといいます。「激シコしちゃって早く売らないとヤバいっす」みたいな会話をよく聞きますね。
買取業者の営業マンは不動産仲介業者へ足を運んで物件情報を貰いに行きます。1日20~30件くらい飛び込みで訪問して、モチベ高い人は、その移動時のスキマ時間に電話営業やメール営業をする。
関係性ができてくると、こちらからアクションしなくても仲介業者の方から物件をご紹介していただけます。
仲介業者もエンド(一般の人)に売るか、不動産業者に売るかで金額を変えます。つまり市場が2つ出来上がっており、市場間の価格差(スプレッド)に目を付けた裁定取引(アービドラージ)によって買取再販業は成り立っております。
そのあたりを分かっている一般の売主もいるみたいで、「いま1000万円で売りに出してるんだけど、売主さんが業者買取でもいいから700万くらいで早期現金化したいみたいなんですよ~」みたいな電話も掛かってきます。
それで収支を計算して、金額や定性的な条件面での交渉をしたりして契約を進めていきます。
転売は悪なのか
さて、案件ごとに高い利益率を上げたり、ROA(総資本利益率)が高い企業はそのまま転売のケースが少なくありません。
その理由ですが、バリューアップせず即転売するような物件は、売主や仲介業者に様々なバイアスがかかっていたり情報格差があったりで、経済合理性に反する意思決定が行われる要因が大きいと考えます。
分かりやすい例でいうとゴミ屋敷なんかが典型です。心理的嫌悪感のフィルターがかかって、どうせ安くでしか売れないだろうとか、売れるまでの状態に仕上げるための清掃がめんどくさいなどの理由で早期割安売却を行うケースです(他にも色々なケースがあるのですがここでは割愛します)。
また、会社経営の観点から見ても、リフォームなどのバリューアップを行わない分、在庫期間が短いためキャッシュを早期に回収できてリスクが少ないです。不動産は特に1件ごとの仕入原価が高額ですし借入金も伴うため、手元現金がたくさんないとすぐに経営難に陥るなんて話も聞きますからね。
そんな理由で、皆様がよく知っている不動産大企業も裏では転売を行っております。なんなら利益の源泉として裏では主軸の事業である企業もあります。そしてそれを一般の人が知りえないのは、やはり転売は社会悪という烙印を押されていることが大きいのではないでしょうか。
それでは転売は本当に悪なのでしょうか。
普通に生活していて記憶に新しいものだとライブチケットの転売、コロナ渦におけるマスク転売、ポケカ転売などがメディアによって取り上げられている印象です。
僕は市場流動性が出来上がっているにも関わらず、物を買い占めることで独占市場なしいは寡占市場を作り上げ、価格を吊り上げ不用意な転売を行う行為は悪だと考えます。だって、それってその物を本当に必要としている人が経済的・市場的に取得しにくくなって、社会全体で見ても損失じゃないですか。イメージ自由市場(完全競争市場)から独占市場などにランクを落としている感じです。
それでは不動産転売の場合はどうでしょう。
現状の不動産市場を見ると、不動産仲介会社などがたくさんありますが、まだまだ市場流通性は低いと思います。
2001年にJ-REITができて少しは資金が流入しやすくなっていますが、ボロッボロで古いやつとか地方物件とかめちゃめちゃ放置されてます。
REITでボロ物件買取のファンドとかできたら結構いい線行くと思うんですよね。
イメージとしてはPER5倍、株価数百円とかの割安小型株を底値で大量に保有するみたいな。清原達郎氏のタワーK1ファンドのREITバージョン(笑)
概念が異なりますが、PER5倍を不動産利回り20%とするとそんな物件は数百万円で買えるようなものばかりです。手直しすれば倍以上の金額で売れることはザラです(即転売でも普通にあり得る)。
さて、これがこのまま放置され続けることは社会にとっても損失になると思うんですよね。経済的にも衛生的にも景観的にも色々な面において。
そんな放置物件を他の用途で使用したり、リフォームして全然使えたりできたら社会がより良くなると思うんです。
そのためには市場流動性を確保することが大事だと思います。
そして不動産市場の流動性がもっと高まれば、その情報格差に目を付け収益化を図ったプラットフォームみたいなインフラ整備も進むのではないでしょうか。楽待なんか典型的ですよね。
そりゃ一般家庭の人は農家から直接野菜を買ったら原価で安く買えるけど、卸売業者が間にいるから、自宅近くのスーパーで買えるという利便を享受できるわけです(そしてそこには卸売業者の利益が上乗せされてます)。
株式市場にしても市場流動性があるから経営者は資金調達しやすいですし、結果、企業が社会により画期的で効率的な商品やサービスが提供されますよねえ。
てなわけで市場流動性を確保する目的で在庫リスク背負ってやっている不動産転売は社会の役にたっていると思います。
資本主義の行先
ニュースやら新聞では、毎日のようにアナリストや政治家なんかが、各国の成長率やGDP、株価の見通しについて持論を述べています。景気が良くなるとか悪くなるとか、日本のGDPは他の国に抜かれてきたとか。でもそれって本当に大事なことなのでしょうか。
サピエンス全史という本を読んだときにヒヨコの赤ちゃんが大量にベルトコンベアに乗せられて、人間の私利私欲を満たすためだけにその一生を終えることとなる的な文章を読んだときに、この資本主義下において正義とされている”成長”の実態が、大量消費大量生産によるものであり、そしてそのシワ寄せは人間以外の生き物や環境に及んでいるのだと考えたらとても空虚な気持ちになりました。
しかも大半の人間は比較の中でしか幸せを感じることができません。つまり”成長”しても、また他の何かや誰かと比べちゃうからその欲望にはキリがありません。
結局人類は、一度は失敗した社会主義に回帰すべきなのではないかと思います。つまりすべての財・サービスが完全に必要な分だけ作られる世界。それでも全ての市場が流動的であることが理想だと思いますし、そのためにはお金(通貨)の在り方を変えないとダメだと思うんですよねえ。
ZOZOの前澤元社長とかはお金が無い世界が来れば世界はもっと幸せになれると、自身の著書で述べてました。どうしてもお金という価値保存機能を持ったものがあると、世界や人や財に偏りができちゃいますもんね。
ケネス・S・ロゴフ著「現金の呪い」では現物の紙幣が存在することが世の中にとってどれだけ損失を与えてるか論じています。キャッシュって不正や犯罪の温床ですもんね。
一方でビットコインの普及が進んでいって、徐々にお金の在り方が変わってきている部分も見られます。ビットコインって民主的な通貨だと思いませんか?だってこれまでは銀行に預けた預金は銀行が勝手に使っちゃうんですよ?それは回り回って戦争兵器の製造企業や国債購入を通じた金ドブ政策・政治家への賄賂等へ資金を供託していることになっているかもしれないのに。
自分のお金の使い道は自分が正しいと思った使い方をした方が良いに決まっています。買い物は応援したい企業に対する投票みたいな考え方です。
これ以上資本主義経済が進むといつか世界は崩壊すると思っています。
決して悲観論者ではなく、色々な本を見て思ったこと。
そうなっても人間の自業自得ですが、やっぱりそれって悲しいです。
私なりの大義
横道にそれて長々と書きましたが、私が不動産買取再販(時に転売)を行う大義は「市場流動性の一助」です。
社会から見捨てられるかもしれなかった物件を市場に流通させることで、より良い社会を作る。
中古物件を市場に流し、供給量を引き上げることで大量消費大量生産を少しでも遅らせる。日本人って新しい建物好きですけど、アメリカとかイギリスって築100年の建物も普通にありますもんね。
空き家の内覧を行っていると、結構な確率で写真アルバムが残っています。
会ったこともない知らない家庭の写真。笑顔で一家揃って写ってたり、赤ちゃんとお母さんの微笑ましい写真だったり。そんな大事な思い出が過ごされた家が、誰にも使われないまま放置され廃れていくことってすごく悲しいです。新しい誰かが住んで、またそこで新たな記録を刻んでいったほうが、なんかよくないですか?
そんな訳でこれからもクセあり訳アリ物件買いますので、何かございましたらご連絡下さい。
再建築不可・共有持分・道下・敷延・ゴミ屋敷などなど。
何卒よろしくお願いいたします。
TEL:080-3966‐4438
E-mail:k‐kishima@outlook.jp