ひとりひとりを尊重する買い物
このところ女性のための製品に関する表現がSNSで物議を醸すことが少なくない。そのたび私はどうにも切ない気持ちになる。
それは決して「一人の女性として」と言う訳では無くて、どちらかと言えば「一人の人間として」という方が適切な気がする。
SNSにおいて、誰かが「これはおかしい!」と言い、多くの人がそれに賛同するものは大抵「ボールを投げた先の相手の気持ち」を尊重していない、投げっぱなしのもののように映るから。
ちなみに、ボールの投げ方が好きな(そしてこれからもそうであって欲しいと感じる)企業の一つにワコールがある。
ワコール。言わずと知れた衣料品メーカーで事業の中心は女性用下着。
いわゆる日常的な肌着から華やかでうっとりとするようなランジェリーにいたるまで、世界中で支持されている(世界を旅する度に、本当にあらゆる国で支持されていることを知った)。
幸運なことに、いちランジェリー好きとしてご縁を頂き、展示会や打ち合わせで時々社屋に伺ったりすると、男性も女性もそれぞれが活き活きとフラットでいるのを肌で感じて、なんだか背筋が伸びる。
そこにあるのは、男性だから偉い、という訳でも、女性だから大事にされる、という訳でも無く、それぞれが尊重されている雰囲気。
一人一人を成熟した人間として扱う、扱われる事。
そして、そんな空気だからこそ、このサービスが生まれたのかなぁと感じたのが、ワコールによるセルフサービスで全身が計測できる「3Dボディスキャナー」だった。自粛明けの7月、私はふらりと伊勢丹 新宿店を訪れ、計測を体験して、至極感銘を受けた。もちろん最先端の技術が胸のサイズなどの測定に活かされているというのもそうなのだけれど、ハードだけでは無くソフト周りが本当に気持ち良かった。
たとえば、測定のために紙のブラジャーに着替える時。使い捨ての紙のブラジャーが「きちんと作られて」いた。
測定を終えてからの店員さんの接客も「必要なことや、こちらが聞きたいこと」は教えてくれる。だけれど、無理に売ろうとはしてこない。「高価なものを買わされる、断りにくいもの」というイメージを抱かれやすい下着だけに、このさじ加減はあっぱれだと感じた記憶がある。
そんな(すっかり夢中になって動向を追っている)3Dボディスキャナーのサービスが更にブラッシュされたことを知った私は、すかさず店頭に赴いた。
3Dボディスキャナーでボディサイズを正確に計測した後、下着選びをモニター越しのアバターに相談できるというのだ。その名もアバターカウンセリングのパルレ。予約さえすれば、約50分、アバターと主にブラジャーの選び方や着け方、使い方などの相談ができる。
実際に利用し、アバター越しに店員さんと会話することによって気づいたこと。
それは(「下着」というセンシティブなものだからこそ余計に)対生身の人間で無いというだけで、自然体で話せたと同時に、比較的お買い物に慣れているつもりの自分ですら、少なからず構えていたんだなという事実。
そして、ECと同じくらいに気負わずお買い物できることがとても快適だということ。
他の店舗と同じように店員さんに商品を押し売りされることは全くなく、欲しいものがあればウェブでチェックするための導線もスムーズ。相談だけでもウェルカム、という姿勢。
これは、カスタマーのことを尊重してくれているからこそだと思うし、それによって買い手の私たち自身も相手を尊重できて、フラットな関係になれることがすごく嬉しい。
そしてこのアバターを介した接客。実は、私たちがパーソナルな悩みも相談しやすいだけではなく、退職された元販売員の方も「リモート接客という形であればまた働けるかな」といった希望を持っていただけるかも、という期待もあるそうで、改めて私は唸らずにはいられなかった。
この先私は結婚するのか、出産をするのか。仕事を辞める事があるのか無いのか。それは分からない。だけれど、誰かが結婚や出産を機に仕事で悩むことが減れば、私も嬉しいし、素晴らしいことだと思う。
そんな風に、ひとりひとりを尊重しているように感じられるサービスが生まれて育っていくのは心から応援したいし、これからもどんどん受け入れられて欲しい。
ボールを投げた先にいる人の事を当たり前に想像できるように。
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