マフラーの色を考える
ある時から私は毎年のようにコートを買わなくなった。一枚数万円のコートは買わず、本当に着たいコートと出会った時だけワードローブに追加して、それを細々を着続ける。大きな買い物をする時は「十年着れば一年あたり幾ら」だとか自分に言い聞かせて買いがちだけれど、経験から言ってしまうと自分が本当に欲しいと思える「自分にとってパーフェクトなデザインのコート」ならば十年着続けることは全く難しいことではない。むしろ、毎年冬になって袖を通す毎に、うんやっぱり最高だわ、とコートと自分の嗜好の両方に恍惚とするのはとても幸せなことだ。
さておき、幾ら気に入っているコートとは雖も、ただ単に着るだけでは味気無さを感じないとは言い切れないし、どんなに自分好みの品であっても、やっぱり塩というかスパイスというか、そういうものがあると、ぐんと風味が引き立つ。これはどうやら料理だけではなくコートにも言えることらしい。そこで役立ってくれるのが、カシミアのマフラー。
顔の真下に一枚上質なマフラーが巻かれているだけで、女性の顔は一回り引き締まり、顔色が華やいで、さらに品が良くなるように思う。丁寧に巻いても、少し無造作に巻いても良い。
どんなに寒かろうが猫背にならず、華奢な首を垂直に伸ばし、姿勢良く前を見据える女性の首元にカシミアのマフラーが巻きついている様のなんと美しいことか。そんな、まるで寒い朝の白い息のように可憐な女性を見る度に私は飽きもせず惚れ惚れとしてしまうし、冬を素敵な季節だと歓ぶ。
この冬、私は、ルイ・ヴィトンのベーシックなネイビーのピーコートにジョン・ストンズの細いベージュマフラーを丁寧に巻くのと、サンローランのヴィヴィッドピンクのマフラーを少し乱雑にくるくると巻いてミュウミュウの黒いワンピースコートの襟元から覗かせるスタイルが気に入っている。母にプレゼントした、これまたジョン・ストンズのブラックスチュワートチェックのマフラーを時々拝借したいとも企んでいる。そして、できることならば、辛子色のマフラーもどこかのタイミングで追加投入したい、とも。マフラーの色を悩むことは、料理を作る前にどんな味付けにしようかとあれやこれや考えるような愉しさに似ているように思う。
もしも「今年のコートはどうしようか、だけど今ひとつピンとくるものが無い」という気持ちになっているなら、思い切って上等のマフラーを一枚買ってみてはいかがでしょうか。これまで買ったコートが、街でなんとなく見かけるアウター類以上に華々しく活躍してくれるかもしれません。
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