私はあなたに魅力的だと思われたい
初対面の人に言われた中で最も印象的だったひと言。もう十年以上も前のことになるのに鮮明に覚えている。
「君は引っかかりの無い、つまらない顔をしているね」
以来私はふとした瞬間、鏡越しに映る自分の顔に「つまらない顔」というラベルを貼ってしまうようになった。
決して自分の顔が嫌いな訳ではない。ただ取り立てて特徴的なパーツがあるわけで無ければ欠点も無い、つまらないと言われてしまえばそれまでの容貌であることは事実だと思う。
それでも私はずっしりと伸し掛かり続けていたその言葉を肩から下ろしたかった。だから私は思い切って小さな反撃をしてみることにした。
「ねぇ、初めて会った日に私の顔はひっかかりが無くてつまらないって言ったこと覚えてます?」
彼はバツが悪そうに苦笑いしながら答える。
「僕が言うのも何だけれど君は顔が整っているから。だからまぁ引っかかりが無いとも言えるよね。引っかかりがありすぎるのもどうかと思うけれど多少の引っかかりが魅力的に感じられたりもするし」
男の人というのはどうしてこんなにも言い訳が下手なのだろう。結局私はつまらない顔だと再認定されてしまったではないか。更に君は魅力が足りないと重ねて駄目出しされているとも捉えられる。大体、顔が整っているなんて言われようが私よりも顔が整っている人なんて沢山いる。それはもう、幾らでも。
ただしその言葉がヒントになって、私は一体何に固執して何に憧れていたのかに気付くことが出来た。
私がずっと欲しかったもの。それはパリの恋人でフレッド・アステアがオードリー・ヘプバーンに歌ったような「綺麗とか可愛いよりも、僕にとってはそれ以上」という感情。
そう、私はあなたに魅力的だと思われたい。
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