見出し画像

いつもの場所

 大学の寮の敷地の端にある受電設備。
 そこの1.5mほどの高さのコンクリートの基礎に登る。
 その基礎のふちに腰掛けて、足を投げ出す。
 そこが、俺の『いつもの場所』。
 冬の寒さが厳しいとき以外、ほぼ毎日のように座り続けたから、『いつもの場所』は俺のお尻の形に汚れが取れて白くなっている。

 『いつもの場所』に座ると足が宙に浮く。
 誰も見ていないことを良いことに、あざとく足をぶらつかせて遊んだりもした。大人になると、意外と足をぶらぶらする機会ってないから。
 「地に足をつけなさい」
 「自立しなさい」
 「自分の人生を歩みなさい」
 「時には立ち止まりなさい」
 ずっと地面についていなきゃいけないような感じがする。だから、足をぶらぶらすると、少し反抗できているような気がする。
 気に入らないやつの背中にアッカンベーをするみたい。

 寮はいつもより賑わっていて、いろんな引越し業者のトラックと清掃業者のハイエースが乗り込んでいる。梅の蕾が膨らんでいる。

 ここに座って、物思いに耽けていた。
 ここに座って、ギターを弾いていた。
 ここに座って、夜を明かしていた。
 ここに座って、泣いていた。

 ここに座るのも、もう最後だろう。

 『いつもの場所』から飛び降りる。
 地面から自分が跳ね返ってきて、足がツーンとする。

いいなと思ったら応援しよう!

きしもと
頂いたお金は美味しいカクテルに使います。美味しいカクテルを飲んで、また言葉を書きます。