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ポール・サミュエルソンの『経済分析の基礎』初学 (『絶望を希望に変える経済学』読書メモ①)

どうも、キシバです。
ある方が「noteに書くのは自分の経験や考えだけでなく、読んだ本についてでもいい」とおっしゃっていたので挑戦をば。

1.はじめに

最近はアビジット・V・バナジー&エステル・デュフロ著の『絶望を希望に変える経済学 社会の重大問題をどう解決するか』(原題:Good Economics for Hard Times)を少しずつ読み進めていますが、中々面白い。キャッチーなタイトルに(翻訳出版業界の方の優れた販促業務の思惑通りに)惹かれた部分はあるものの、中身も現代国際社会の諸問題をわかりやすく、親しみやすい文体と内容を通じて経済学的視点を紹介してくれています。

今回はその一節に登場した、以下の一文について。

”言うまでもなく、GNPが(イギリスとポルトガルの両方で)増えたからといって、損をする人がいないわけではない。ポール・サミュエルソンの名高い論文は、負け組は誰かをはっきりと教えてくれる。(中略)だが生産には労働力だけでなく資本も必要だとなったとたん、話はそう単純ではなくなる。”(同著、p83)

前後の文章曰く、どうやらこの『名高い論文』は生産において必要な資本に差が生じた時、多額の資本を持っている側が一方的に利益を増やしていく、という状況を示した論文のようです。

1941年、25歳で書かれたということで、調べてみるとこれはポール・サミュエルソンの『経済分析の基礎』を指している様子。

ですが経済学分野においては恐らく常識中の常識であろう(その前に私が最も愛するリカードの比較優位が並べて語られていた以上、疑う余地もなく)その論文を、寡聞にして私は知りませんでした。無学に恥じ入るばかりではありますが、まぁそれはいつもの事です。知らない事しか学べません。知らない事を見つけられたと喜んで、先を読み進める前にひとまず軽く調べてみることにしました。(勿論、最善なのは論文そのものを通読することなわけですが――その辺りの何処に時間を掛けるかもまた学び手自身が決めなければならない、と)

2.『経済分析の基礎』の概要

『経済分析の基礎』(別訳で『経済分析の基盤』、原題:Foundation of Economic Analysis)はその後の経済学のまさに基盤となった論文であり、経済学の「数学化」を推し進めた立役者であったようです。

”経済問題を数学を用いて解くという手法を定着させた。経済理論は観察不可能な概念によって構成されていても,経済学における命題は検証可能な「意味のある定理」として導出しなければならないという論理実証主義的な考え方に基づく。”(コトバンク、『経済分析の基礎』)

つまりはアナログからデジタルへの変換、定性ではなく定量化。「現象」を「論理」に置き換えて、計算可能な概念として数値化する手法を経済学に導入したわけですね。

「経済学の数学化」、つまり数理分析を主軸とするのが現代経済学の主流である新古典派経済学。

この「経済学の数学化」を通じて様々な主題を論じたのが『経済分析の基礎』の意義と言えるようですが、顕示選好だとかの楽しげフレーズは見つかったものの、「生産には労働力だけでなく資本も必要だとなったとたん、話はそう単純ではなくなる」の文意が指している『生産において必要な資本に差が生じた時、多額の資本を持っている側が一方的に利益を増やしていく』という主題はどれなのでしょうか。

当然ながら一つの著書、それも大書で纏められているのは理論一つではないようで、上記で触れられていた該当部分を探さねばなりません。というわけでもう少し検索、読み返し、各ソースの読み比べを続けてみると。

ヘクシャー=オリーン・モデル(HOモデル)ストルパー=サミュエルソン定理というのが上述の話の由来であるようだとわかりました。

3.HOモデルとストルパー=サミュエルソン定理

ヘクシャー=オリーン・モデル(HOモデル)・・・『資本の豊富な国は資本集約財(集積回路など)を輸出し、労働力の豊富な国は労働力集約財(工場の人員など)を輸出することで利益が増加する』という、伝統的な経済理論。
リカードの比較優位論をシンプルに整えた修正版とも言える。むしろ比較優位はこちらの意味で知られているようにも。

ストルパー=サミュエルソン定理・・・上述のサミュエルソン氏らが考案した、HOモデルを数学的に計算するための定理。
HOモデルで貿易を行うと、『資本豊富国では資本集約財の作り手=中・上流階級(だけ)が利益を増す』『労働力豊富国では労働力集約財の作り手(だけ)が利益を増す』。よって、『資本豊富国=先進国では貿易を行うほどに格差が拡大し、労働力豊富国=途上国では貿易を行うほどに格差が是正される』という結論が導かれる。
ただし、この結論は現実のデータには反している。

4.まとめ

というわけで、

"ポール・サミュエルソンの名高い論文は、負け組は誰かをはっきりと教えてくれる。"(同著、p83)

という一文が指していたのは、ストルパー=サミュエルソン定理によって導かれる『資本豊富国=先進国では貿易を行うほどに格差が拡大し、労働力豊富国=途上国では貿易を行うほどに格差が是正される』という結論の事のようでした。

ただしこの結論は数学的には正しいが、事実とは異なっている――という前置きとして、この後の話は進んでいくようです。ともあれ経済学の著名な理論について、概要レベルの初学ではありますが数十分の調べ物で知ることができたのは意義があったかなと思います。

……いや、まぁ大枠で言うと経済関連の学部(経営学部)を出といてそれ知らんっていうのはたぶん大恥も大恥ではあるんですが……。気にせず初学者続けていきます。「馬鹿を誇って大いに学べ」が座右の銘なので。嘘です。今考えました。あと在学中はマクロ経済学の単位回避して卒業しました。数理グラフ見るの嫌いだったので。ゴメンナサイ。

まぁ大学時代にちゃんと学べなかったことを学び直せるなら、それはそれで悪くないということで、どうかひとつ。

(たぶん続きます)

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