転院
転院先候補の二か所の面談を終えた。
立地的にも、そして何より看護師長さんの人柄で、私と息子は二か所めに面談した病院に、転院先を決めた。
面談の帰りに主人の入院先の病院に行った。
事務局に寄って昨日電話して来た事務員を訪ねたけど、席を外していて居なかったので、転院先を決めた事を伝言してもらう事にして、主人の面会に行った。
主人は相変わらず不穏で不機嫌。
息子と二人で主人をなだめて、転院の話をしていたら、事務の女性が部屋に入って来た。
「あ、この子がそうなんだ」と思った。
声の感じで「若そうだな」とは思っていたけど、本当にまだ若い、娘と変わらないくらいの女の子だった。
その子が部屋に入って来るなりいきなり、
「介護タクシーはこちらで頼みますから、明日転院出来ますよね!?」と言った。
それまでそこの病院で、主治医や看護師さん達にもいろいろお世話になって、何の悪い印象も持って無かったのに、事務員の女の子一人の言動で一気に印象が悪くなるのだから、本当に人間というのは感情の生き物なんだと思う。
どちらかというと感情に起伏のない息子が、帰りの車の中で
「あんな、人つまみ出すみたいな言い方せんでもええのにな」と言った。
彼女のしている事は間違ってはいない。
そこの病院は急性期で、治療の必要な人がどんどん入院して来て、みんな忙しい。
だから、治療の必要のない患者は療養型病院へさっさと転院させないとベッドも空かないし、手もかかる。
でもこちらだって分かっているから個室代も納得した。
これからますます動けなくなって、コミュニケーションもとれなくなっていく家族の、終の住処を決めるのに、慎重になって当たり前だと思う気持ちも大きい。
結局は伝え方の問題。
主人が病気になってから、いろんな人の何気ない言葉につらい思いをしたけれど、こんなにマトモに言葉でガンガン殴られてる感じがしたのはこの時くらいだった。
次の日、私と息子がまた付き添って、転院する事になる。
介護タクシーに車椅子ごと乗せられた主人は、またもや悪態ついて大騒ぎしたあと、子供みたいに泣き出した。
訳も分からず、不安だったんだろう。説明は一応したけど、もう理解するのは無理だったかも知れない。
この日の悪態はもう最高調で、思いつく限りの悪口を、まわりにぶちまけていた。
今でも息子は
「転院の時のお父さん、めっちゃ憎たらしかったなぁ。あんな言い方、どこで仕入れたんやろ」と、思い出す度に言ったりする。
そして転院先の病院では、面談してくれた看護師長さんが、
「あらまぁ、ホンマに大急ぎやねぇ」と苦笑しながら迎えてくれた。