赤穂のおのぼりさん、パリへ
フランスに来て1ヶ月とちょっと、私の担当の教授が精神科医と一緒にやっているセミネールが月一回あるので初めてパリに行った。
正確には飛行機でパリのシャルル・ド・ゴール空港に到着して2度目と言わねばならないが。
私が普段住んでいるリールはパリから北へ新幹線で1時間ほど。バスで行くなら2時間半ほどなので日本で言えば京都から名古屋くらいのイメージで差し支えないかもしれない。
とにかく初めてパリに行った。授業は15時30分からで、私の乗る新幹線がパリに正午過ぎには到着したたため、まだ少し時間に余裕があった。
セミネールは水曜日と木曜日の二日間。初日の今日はパリの南東の12区(くらいだと思う)にある別の大学の教室で行われる予定だ。
滞在は水・木・金の2泊3日、金曜日には日本大使館に出生証明書を受け取りに行かなければならない。
この少しの時間を何に使おうか。
なんとなくまだ大学にも一度も行ったこともないし、学生証も受け取っていない。スムーズに行けば間に合う時間だ。
少し考えて一度、大学に行ってみようと思い立って地下鉄で向かった。
私の所属するパリ第8大学は、パリの北のはずれ、サン・ドニというギャングスタラップのメッカのようなところにあって、治安の悪さで有名な地帯にある。また哲学的にはかなり伝統がありウィキペディアを見たらジル・ドゥルーズ、アラン・バディウ、フーコーら、錚々たる現代思想家が名を連ねている。
地下鉄を乗り継ぎ大学に到着し、警備員に荷物をチェックされ、インフォメーションに行った。
*以下、ここからのやりとりはカタコトのフランス語での会話であり、理解や伝達にこちらにも大いに非があることは十分承知の上で、私の主観であることを許してほしい。
インフォメーションにいた男性に「学生書を受け取りたい」と申し出ると、向かいの張り紙を指さされる。
そこには「午後2時まで待て」と書かれている。インフォメーションに「私は博士課程だけれどもここであってるのか?」と聞くと「そうだ」という。
では2時まで待とうと思って軽くサンドイッチでも食べて大学内をフラフラとしていると学食の横にピアノが置いてあった。
なんとなく私は歩く動線を少しピアノの方向にずらした瞬間、一人の女の子もピアノへ動線をずらしたのが視界に入った。そこで私はすぐさま動線をまたずらしピアノから離れようとした。
すると彼女はそれに気づいて「是非弾いてくれ」とジェスチャーで私に言う。
ピアノを披露する腕前は持ち合わせていないが、まぁものは試しにと軽く歌う。
「これは私の歌です。あまり弾いていないが昔はよく演奏していました。」
と私は彼女に行った。
すると彼女は「他に歌はありますか?」というので
今度は少し本気目に、しかし、力みすぎず『お店でおいてない』を演奏した。
「パリに初めて来て大学のピアノで偶然出会った女の子に自作の歌を歌う。」
なんだ、この状況は。まるで映画のようではないか!?
聞くと彼女はスウェーデンかの留学生らしかった。彼女は私の演奏を携帯電話で動画に撮ってくれていて、すぐに連絡先を交換して動画を送ってくれた。
劇的な出会いに少しホクホクしていた私はすぐにフランスの現実に引き戻される。他にも歌があるか?と私に尋ねる彼女をあとにして
2時になったので先ほどのインフォメーションに行くと、インフォメーションセンターの正面に位置する学生証受け取りの窓口は確かに開いており既に数人の生徒が何列かになって並んでいた。
その列に私も並び私の順番に。
担当の学生アルバイトに聞くと
「博士はここではない、建物Dに行ってくれ」
という。
ほらみたことか!
いっつものことだよまったく!!
と思いながら建物Dへ。建物Dは先ほどピアノを弾いた校舎のさらに奥だ。私はまた戻って、建物Dへ。しかしそれらしき場所はない。
建物Dの職員に聞くと
「それは多分間違いだと思う」と。
また学生アルバイトへ。
「建物Dには何もないよ」
すると学生アルバイトは、色々アルバイト同士数人で話し合った後
「わからない。インフォメーションに聞いてくれ」
と。
「でたよ・・・」
と思いながらもインフォメーションへ。
インフォメーションの男は先ほど、私に間違いを案内したことは全て何もなかったかのように、
「博士課程?どこの所属?あーそれなら建物Aだよ!」
この時点で先ほどのスイートな時間は無効になりかけている。
最初に書いたように私は15時30分にパリの南12区に行かなければならない。ここは北のはずれ。
初回のセミネールに間に合わないではないか!?
急いで建物Aへ。
案内された部屋に行くとそこにいた学生さんに
「多分、あそこだ」と
建物Aの別棟を指差した。
またここではないのね・・・と思いながら
「うーん。ありがとう!」
別棟へ向かいA棟の別棟にいた職員に声をかけると
「あー明日だね」
「え?」と私。
「今日は休み、明日きて。」
とその職員は隣の部屋を指差した。
確かに隣の部屋には水・金はお休みと書いてある。
なんということだろうか。
下手なRPGでももう少しマシな展開が用意されてアイテムがゲットできそうな気がする。
クソゲーをここまで徹底した現実があったのかと思いながらもギャングスタラップと現代思想の聖地を後にするのだった。
こんな感じで私のパリは始まった。とりあへずパリの大学で初めて歌を誰かに聞いてもらえたというのは良い経験になった。
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