壱
「魔夏の世の夢」
それは私が初めて知って一か月経った頃から二年間ぐらい、一番好きだと思っていた曲名だ。
音楽という世界に触れること自体が初めてだったからだと思う、この曲が一番好きだったのはそれまで聴いていたアニソンのようにアップテンポで歌詞がかっこよくて世界観を表していてというような、本当、今思えばよくわからない理由で好きだったのだ。
そしてライブ映像が無いことに激しいショックを受けたのを覚えている。
当時雑食のままライブに行きまくっていた私は、振りを重視していた。
ライブに行く意味は好きという気持ちとほぼ振りの楽しさだった。
しかし調べても振りを出してくれていた映像は何年も経ったのだから当たり前か、消えていた。
文章で探しても「ファンの方が動画を送ってくれて」までしか分からなかった。
最近、終焉のLIVE DVDをテレビで初めて見た。
こんなに好きなのだから泣くかなって思っていたが、泣かなかった。
哀しいという気持ちで溢れそうなほど苦しく満たされているのに、この気持ちにもう慣れてしまったのだろうか。
それとも、解散しているという事実を何年も意識していたからだろうか、
単純にyoutubeで見すぎたのかもしれない。泣けなかった。
それぞれの表情に細かく抱く感情が変わって、ひとつひとつ言いたいことも生まれたのに。
ため息をつきながらプレイヤーからディスクを取り出し、二枚目を入れた。
解散しているし居ないし、舞台から降りた姿まで好きになったらどれだけ苛まれるだろうかと、これはyoutubeで見ようと思ったことがなかった。
このことについてはもう手遅れだとは自覚しているが。
此方は消化するような気持でただ、眺めていたに近かった。
しかし、聴けたのだ。
短い時間だけだが、ライブでの魔夏の世の夢が。
何年も前に諦めたはずの、魔夏の世の夢の振りが目に入った。
嗚呼、こんな振りだったんだな。
右手が自然と動いていた。
本当短い時間だった。でも、知れた。
その事実だけで十分だった。
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