prologue
その日の朝、プリンスエドワードに差す日差しは
やはり穏やかでした。
「 もう、なによアイツ!」
日が昇る前にベッドから跳ねおきたアンは
何度もその言葉を口にしていました。
ランチボックスにサンドイッチとサラダを
丁寧に入れた後
もう2時間もクローゼットの前に座り込んでいます。
まだお日様が昇るまで、幾らか時間のある頃でした。
ずっとそっけなかった彼が突然
「 今度一緒に散歩をしよう。」
そんな事を言ったものですから
アンは怒ってしまいました。
「 もう、なによアイツ!」
何度も服を着かえ
そのたんびに鏡の前に立つアン。
けれど、その表情はとっても嬉しそうなのです。
真っ白なワンピース
鏡の前でくるりと舞うと
その裾は軽やかに波打ちます。
やがて約束の時間。
初めて着る「お洋服」で彼に会いに行く。
どうしても顔がほころんでしまいます。
アンはキッチンのランチボックスをつかんで
玄関を飛び出しました。
駆けだした次の瞬間
「 アンッ、帽子!
それ以上そばかす増やしてどうすんだい!」
踵を返して玄関に戻り
いつもの帽子を被ります。
真っ赤な麦わら帽子。
帽子を押さえながら
もう一度、大急ぎで駆けだしました。
彼が待つ丘に向かって。
その日、プリンスエドワードに吹いた風は
やっぱり穏やかでした。
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