![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/27803577/rectangle_large_type_2_7264ca5835d61916ce226b6fdbff47c6.jpeg?width=1200)
お花畑とミニクーパ
がたがたと揺れる山道を古めかしい小柄なミニクーパが登っていく。
今どき珍しいマニュアル操作のこだわりは、こういう場所では裏目に出る。
運転席の旦那はこまめにギアを切り替えながらカーブミラーの先を慎重に見据えて運転をしている。
私はふと心に浮かんだ疑問を思わず口に出していた。
「なんで花を見に行くのかな」
「変なことを聞くね。君が行きたいといったんじゃないか」
旦那が不思議そうに聞き返してくる。
「確かに君が薔薇を見に行きたいと言い出した時はびっくりしたけどね」
「そうなのよ。自分でもびっくりしてるの。私そんなにお花好きだったわけじゃないのに」
がたがたと硬めのクッションの助手席で揺られながら私は自分の行動を振り返っていた。きっかけは大したことではない。たまたまスマホに表示されたバラ園の薔薇が満開になったというニュースが目に入ってきたとき、私はなぜかどうしてもそこに行きたくなったのだ。
あまりの細い道にひやひやしながら到着してみれば、何のことは無い、私たちが不安に駆られながらたどった道は完全に裏側からの回り道だった。ミニクーパの古いナビは新しくできた広い舗装道を認識していなかったのだ。
駐車場は思いのほか混雑しており、私たちのミニクーパは駐車場の端っこまで誘導されてしまった。
園内の入場口はずいぶんと遠い。
車を降りてバラ園の方を眺めた旦那が私に声をかける。
「いや、これは案外いいポジションかもしれない。こっちから見てごらん」
言われるがままに車を降りて2、3歩後ろに下がってみる。
「そうそう、そのあたり。で、少ししゃがんで見てみると…」
「ああ、なるほど」
駐車場はバラ園に沿って設けられているのだけど、バラ園は奥に行くほど小高くなっており、私たちが案内された駐車場の奥の方では期せずして園内に入らずとも薔薇の花畑が視界に入るようになっていた。
鮮やかに咲き誇る色とりどりの薔薇、薔薇、薔薇。
普段よく目にする深紅の薔薇だけではなく、真っ白なものや、鮮やかなオレンジ色、黄色などの暖色系、まるで桜のような薄ピンクの薔薇も目に飛び込んできた。
ちょっと待って。私はあることに気が付いて、さらに数歩後ろに下がってみる。すると思った通り。ミニクーパを間に挟んで園内の薔薇たちが視界に入り、まるでミニクーパがバラ園の中に佇んでいるように見える。
いやー、これはかわいい。薔薇の花畑とミニクーパがよく似合っている。
私はスマホを取り出して、旦那そっちのけでミニクーパと薔薇の写真を何枚も撮り始める。
旦那はそんな私を見ながら声をかけてきた。
「さっきは怒るかなと思って言わなかったんだけどさ、年を取ると花が好きになるって言うよね」
「おや失礼な」
旦那は苦笑いをしながら続ける。
「いや、君のことじゃない。もしかしたら、このミニクーパが薔薇を見たかったんじゃないかな、なんて今思ったよ」
確かに、旦那と二人で一目惚れして中古で手に入れたこのミニクーパ。
あちこち一緒に出掛けたものだが、すでにかなりの年季が入っており、ナビも今日のように時々現在地を見失うほどに古くなってきている。
「なるほど。私じゃなくて、君が薔薇を見たかったのね」
ポジションを変えて何枚も写真を撮りながら私はミニクーパに声をかける。
スマホ越しに見えるミニクーパは、なんだかどことなくご満悦気に写真に納まっていた。
いいなと思ったら応援しよう!
![きさらぎみやび](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/24509234/profile_fb088d3c6f7819153f0e305639740e38.jpg?width=600&crop=1:1,smart)