庭園少女【ガーデニングガール】
「う、ぐ……」
くぐもったうめき声と共に床に咲いた血の花が蕾を広げていく。声の主はでっぷりと太った中年の男。目隠しをされ、両手を縛られて宙吊りとなっている。弛んだ肉には無数の傷が刻まれ、血が絶え間なく滴っていた。
男の足元に座り込んでいるのは、年端もいかない少女。彼女の頭の上には真っ赤な薔薇の花が咲いている。比喩ではない。文字通り頭から無数の薔薇の茎が伸びており、その先に花が咲いているのだ。
瀟洒なロングドレスを纏った少女は、薄い笑みを浮かべながら哀れな犠牲者を見上げている。
「貴方がいつも女の子にしていたみたいに、吊るされる気分はどうかしら? 」
少女の言葉に、宙吊りの男はうめき声を返すだけだった。少女の耳元のイヤリングから声が響く。
『遊びすぎだ、薔薇。百合と紫陽花は既に情報入手済だぞ』
「園丁、文句ならこれに言ってくださいません? わたしの脳にまで根を張った忌々しいこの薔薇に」
そう言いながら薔薇と呼ばれた少女はスカートについた埃を払ってその場に立ちあがる。
次の瞬間。
部屋の窓ガラスが一斉に割れる。押し入ってきたのは完全武装の男たち。警告もなく少女に短機関銃の9mmパラベラム弾を叩き込む。
―――だが、その弾は一発たりとも少女に届くことはなかった。
薔薇の蔦が少女の背中、ドレスの隙間から伸び、彼女を守るように十重二十重に包み込んだからだ。
「良い音ですわね」
少女は歌うように呟く。
「Si Vis Pacem, Para Bellum」
ふわりとスカートを靡かせて、くるりと優雅にターンする。
ズパンッ!
少女を包み込む蔦が勢いよく回転すると、先ほど受け止めたパラベラム弾が一斉に周囲に撒き散らされる。それは颶風となって少女を包囲していた男たちの身体を貫いた。
【続く】
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