YOASOBI 1st LIVE「KEEP OUT THEATER」ライブレポート
一言で言うと、圧巻だった。
初ライブがオンラインという、今の状況に応じてのライブパフォーマンスであるがゆえに、その特性を生かしきった演出が試みられており、存分に楽しませてもらったと思う。スクショを解禁してファンにライブレポートを書いてもらうというのも状況を逆手に取った素晴らしいアイデアだ。自分も存分に乗っからせてもらおうと思う。
では、順番に見ていこう。
オープニングは背景に工事現場らしき場所を移してのスタート。
厳ついエレベータに乗りこむメンバーの足元だけを映す憎い演出。落ち着かない足元からは緊張が伝わってくるようだ。
エレベータが止まるとAyaseとikuraの二人がバンドメンバーから少し遅れてステージへ向かう。微かな声で二人、話しながら歩く。カメラは夜景に写るクレーンを映す。これだけでもYOASOBIの世界観を表現されているから不思議だ。
そして大きく照らし出されたおなじみ「YOASOBI」のロゴとその前に立つikuraのアカペラからライブスタート。
一曲目は【あの夢をなぞって】。歌詞と同じく花火を模した照明が後ろに映し出される。
夢の中で見えた未来のこと
夏の夜、君と、並ぶ影が二つ
最後の花火が空に昇って消えたら
それを合図に
カメラワークも「照らした横顔」でikuraの横顔のショットを切り取ったり「見上げた空」で視界が上に持ち上がるなど随所に歌詞を意識したカットが続く。疾走感と切なさが同居したメロディに緊張で少しまだ硬いとも感じるikuraの声が奇跡的にマッチしながら駆け抜けていった。
2曲目は【ハルジオン】。こちらもアップテンポなビートながら悲しさを含んだメロディが心に染み入ってくる一曲だ。
あなたの言葉に頷き信じた私を
一人置き去りに時間は過ぎる
見えていたはずの
未来も指の隙間をすり抜けた
戻れない日々の欠片と
あなたの気配を
今でも探してしまうよ
まだあの日の二人に手を伸ばしてる
切なげに手を伸ばすikuraの表情がこの歌の世界観を如実に物語っている。
曲のラストは悲しさを滲ませながらも未来への予感を感じさせるアコースティックギターのフレーズで締め。
ここでしばしのMCタイム。
Ayaseは「緊張で口の中がパサパサ」と笑う。ようやく二人も緊張がほぐれてきたようだ。ここで舞台が改装途中の新宿ミラノ座の8Fフロアであると明かされる。今まさに工事を行っている現場を使ってのライブは前代未聞だろう。こんな所でも彼らのオリジナリティを感じさせた。また配信ライブならではの仕掛けとして、用意されたタブレットでikuraが視聴者のコメントをリアルタイムで拾っていく。読み上げられたコメントは「おしゃれやん」。それに乗っかり今日の衣装がメンバーそれぞれが自分で塗装して仕上げたオリジナルであることを明かすAyase。さらに二つほどコメント拾ったところでまさかの通信トラブル。鉄骨が多い場所なので通信状態も不安定なのだろう。そんなトラブルにも動じずにikuraは視聴者に対して「ぬくぬくとしたところで聞いていると思いますが……」と笑いながらコメント。それに対してAyaseが「僕らは音楽で熱くなっていきましょう」と上手く返したところで次の曲へ。
3曲目は【たぶん】。スローなバラード調のメロディが冬の光を思わせる暖色系の照明の中で響き渡る。
少しずつすれ違っていってしまう男女の心を緩やかに、エモーショナルに歌い上げていく。
悪いのは君だ
そうだっけ
悪いのは僕だ
たぶん
「そうだっけ」で声が微かに掠れたのは、意図的なのか、違うのか。
情感あふれる表現を優しいメロディが包み込んだところで曲は終わる。余韻を含みながら次の曲へ。
4曲目は【ハルカ】。木琴を思わせる音色のポップな曲調に合わせてステージの雰囲気もガラッと変わり、照明は春を思わせるカラフルな花を想起させる演出へ。
恋人とも友人ともとれる「君」と「ボク」、背中をそっと優しく押してくれるようなストレートな歌詞に心が温かくなってくるのを感じる。
君のよろこびは
ボクのよろこびで
君の大切が幸せが
いつまでも君とありますように
最初と同じ木琴調の音色で曲は締めくくられる。
そして2度目のMCタイム。マグカップの話題から視聴者も含めて「みんなで乾杯しよう」と提案。バンドメンバーそれぞれの飲み物の話題から、「キャラが出てる」とはikuraの発言。確かにメンバー皆が思い思いの飲み物を準備していた。
そんな中、ikuraが自分の飲み物が何か分からず、確認のために一足先に飲んでしまうという一幕も。思わず笑ってしまうメンバー一同。普段の彼らの様子がなんとなくわかるライブならではの貴重な場面だった。
皆で乾杯を済ませたところでライブは後半戦へ。
5曲目は【怪物】。演出はがらりと変わり、ダークでブラックな世界観へ。スモークが遠景から見て火事だと思われないか心配になるくらいにふんだんに吐き出され、世界観を演出する。
とにかくこの曲の演出効果はとても気合が入っており、引きのカメラワークや工事現場の特徴を生かしたフェンス越しの画面、そして曲のリズムに合わせてのカメラシャッフルなどそのままMVとして流しても構わないくらいの素晴らしい出来となっていた。写真を載せようとすればキリがないくらいだ。
曲自身に関しても今までのYOASOBIとはまた違った、新しい扉が開かれたかのような世界を見せてくれている。
真面目に着飾った行進
鳴らす足音が弾む行き先は
消えない消えない味が染み付いている
裏側の世界
そして興奮が冷めやらぬままに次の曲へと繋がっていく。
6曲目は【アンコール】。冒頭、ikuraは「明日も明後日も音楽が鳴り続けますように」とこの曲とまるでリンクしてしまったかのような今の世界の状況に言及しながら、捧げる様に歌い始めた。
明日世界は終わるんだって
それならもう
その時まで何度でもずっと
好きな音を鳴らそう
そんなYOASOBIを後光のような照明が包んでいく。
まるで天国を思わせるように、彼らの足元をスモークが取り巻く。
静かな鍵盤のメロディが祈りのような歌詞と共に曲の終わりを彩った。
もしも世界が終わらなくって
明日がやってきたなら
ねえ、その時は二人一緒に
なんて
そして最後のMCへ。ゆったりとしたピアノの伴奏と共に、名残惜しそうに二人が話を始める。「終わってしまうのがさみしい」と素直な心境を吐露するikura。それでも「今日一人じゃないんだなと思った」と画面の向こうにいるたくさんの視聴者の存在を感じ取りながら、これから先についてワクワクしていると語った。
一方のAyaseはYOASOBIの始まりからを噛みしめる様に話しだす。冗談めかしながらもしんどいこともあったと述べる彼の心境は計り知れないものがあるのだろう。
「こたつに入ってPCで作った曲」が彼らをここまで連れてきたことに驚きと感謝を示しながら、7曲目は言わずもがな彼らの始まりの曲、【夜に駆ける】。
忘れてしまいたくて閉じ込めた日々も
抱きしめた温もりで溶かすから
怖くないよいつか日が昇るまで
二人でいよう
やはり彼らを代表するこの曲は抜群に安定感のあるパフォーマンスだった。
ikuraのボーカルも普段の彼女の話し声とは異なる独特の音域で響き渡り、そこにAyaseが奏でるメロディが重なる。これこそYOASOBI、彼らそのものといえる音楽だ。
そして小説から紡がれた世界観がそこに重なり、唯一無二の楽曲へと昇華していくのだ。
繋いだ手を離さないでよ
二人今、夜に駆け出していく
そしてあっという間の一時間、ライブの締めくくりを飾る8曲目は【群青】。
知らず知らず隠してた
本当の声を響かせてよ、ほら
見ないフリしていても
確かにそこにある
渋谷系を思わせるポップな電子音と、生々しいコーラスが印象的な一曲。ライブパフォーマンスの今回はメンバーによるコーラスが曲に彩りを与えている。そしてikuraは今日の感謝を告げる様に、バンドメンバーに寄り添うようにして曲を歌いあげていく。
最後は当然、Ayaseと二人、まるでデュエットでもしているかのように歌を紡ぐ。
大丈夫、行こう、あとは楽しむだけだ
歌いながらも彼らの間では、会話が交わされているのかもしれない、そんなことを思わせるほどに自然体のパフォーマンスだった。
そしてバンドメンバーだけでなく、まるで画面の向こうの視聴者まで一体となっているかのようなコーラスでライブは終了。
知らず知らず隠してた
本当の声を響かせてよ、さあ
見ないフリしていても
確かにそこに君の中に
エンディングの演出までYOASOBIは楽しませてくれる。
柱に描かれた二人のサイン。それをきっかけにカメラは移動し、工事現場の柱に、階段に、壁に、フェンスに記されたクレジットを映し出していく。なるほど、これが「KEEP OUT THEATER」か。
そしてカメラは最後にエレベータを映して終了。そこにはタイトルクレジットに重ねて「Thank you!!!」と感謝の文字が。
こちらこそ感謝を述べさせてもらいたくなるような、遊び心と洒脱な演出に満ちたライブパフォーマンスだった。
そして次は、かなう事ならば自分たちの目で、彼らを直接見たいものだ。
その日を待ち望みながら、今という時を、皆で乗り越えていこう。
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