第12話 科学部、二人の変態を残して寝る!
さて、金太と姐御が起きてきて、今度は二号と教授が寝る番になる。勿論ではあるが二号は姐御に「教授に悪戯するなよー」と釘を刺し、教授は金太に「姐御先輩に手を出すなよ?」としっかり言い含めて、休憩に入った。
「全く失礼しちゃうわね、寝込みを襲うほど堕ちてないってのよ」
「そうっすよね! 俺だって、二人が寝ている横で姐御先輩を押し倒すほどの勇気は無いっすよ」
「それって、二人が隣にいなかったら問答無用で押し倒すってこと?」
「あ、その手があったっすね!」
「しまった、マウンテンゴリラに余計な入れ知恵しちゃった」
金太が急にぼそぼそと小声になった。
「そんなことできるわけないじゃないっすか」
「え?」
「なんでもないっす!」
「変なの」と笑う姐御が眩しすぎて金太が彼女から目を逸らすと、二人向かい合って何か語り合うかのように寝ている二号と教授が目に入る。
「昨夜、教授とどんな話をしたんすか?」
「サバイバルの注意事項を叩き込まれた感じ。一人になるな、勝手に海に入るな、林に入るな、池に入るな、生き物が出たら大声で呼ぶ、少しでも寒いと感じたらすぐに言う、ちょっとでも具合が悪くなったら絶対に我慢しない、怪しいものは口にしない、わからないものはむやみに触らないってところまで行って、ココではあたしの方が教授よりいろんなこと知ってることに気づいて笑ってた」
「ふーん、そうなんすか」
「どうしたの?」
「いや、俺……」
金太がイマイチ元気がない。
「古生代とか全然わかんねーし、生き物まるで知らねーし、二号先輩の説明チンプンカンプンだし、一人だけ役に立ってねーなと思って」
「んなこと無いわよ。あたしたち、頭はそれなりに使えるけど体力無いから。そこは元相撲部のあんたに全部お任せ」
「柔道部っす」
「物干し台、いいのができたじゃん」
「姐御先輩、優しいっすね」
焚火が偶にパチンと音を立てて爆ぜる度に、教授が何か寝言を言っているのがおかしい。
「……ですからそれは……フィボナッチ数列に……むにゃむにゃ」
「面白いよねー、教授って。物理屋ってさ、数学とか得意じゃん? 昨日も何を計算してるのか知らないけど、途中からずっと砂に数式を書いて何か計算してたんだよ」
「あいつ、学年トップなんすよ、成績」
「だろうね。二号もだよ、入学したときからずーっと」
「どんな話してたんすかね、二人」
「それより、金太は昨日二号と何話してたの?」
急に姐御に腕を取られて、金太の心臓が口から飛び出しそうになっている。もしかしたらもう、その辺に落ちているかもしれない。いや、ちゃんとバクバクと脈を打っているから、金太の体内のどこかにはあるようだ。
「き、基礎的なことっす。この時代の」
「あたしにも教えてよ」
上目遣いの目と、そのすぐ下に立派にそびえる二つの巨大ドーム、そして深い深いマリワナ海溝のような谷間に、金太の目はついつい吸い寄せられてしまう。仕方なかろう、健全な高校生男子である。これでピクリとも反応しないのは教授くらいのものだ(それどころか手でムニッとその胸を押し返しやがってあの野郎許せねえ)。
「ものすごく大雑把に分けて、先カンブリア時代、古生代、中生代、新生代ってゆー四つの時代があったとか」
「うんうん、特徴は?」
「えーと菌類・藻類が発生したのが先カンブリア時代。原始的な生物とか虫とか魚とか、あと胞子で増える植物ばっかりだったのが古生代。恐竜が出てきて、種《たね》で増える植物が増えたのが中生代。哺乳類が爆発的に増えたのが新生代?」
「そうそう! よく覚えたわね。テストに出るよ」
「現代に戻れればっすよね」
ご尤も過ぎる指摘である。
「それで、今は?」
「古生代ペルム紀。古生代の一番最後っすね。えーと、カンブリア紀、デボン紀、ジュラ紀……ああ、もう無理っすね」
「ジュラ紀は中生代だよ。古生代は5億4000万年前から2億5000万年前くらい。古い方からカンブリア紀、オルドビス紀、シルル紀、デボン紀、石炭紀、ペルム紀ね。その後に中生代の三畳紀、ジュラ紀、白亜紀と続くの。ペルム紀の最後に大絶滅があってね、それがペルム紀と中生代の最初である三畳紀の境目で起こっているからP-T境界って言うの」
「ペルム紀がPなのはわかるんすけど、三畳紀はなんでTなんすか?」
「三畳紀はトリアス紀とも言うからよ。簡単でしょ?」
姐御はニコッと笑うが、簡単とは決して言い難い。
「わかると面白いっすね。授業じゃさっぱりチンプンカンプンなのに、姐御先輩だとわかりやすいのはなんでなんすかね」
「それは先生の説明がヘボいのよ」
酷い言われようである。でも事実である。
「生徒の『なんで?』を引き出せないような先生なんて要らないわよ、教科書読んでりゃいいわ。質問できることが授業の最大のメリットなんだから」
「姐御先輩は先生になるんすか?」
「どうせ戻れそうにないもん、ペルム紀に先生は要らないでしょ? かといって、ここであたしが誰かと繁殖活動でもして、ホモ・サピエンスを増やしてしまったら、完全に生態系が崩れちゃう。しかもあたしたち科学者の卵だよ? あたしたちの子孫が何をしでかすかわからないじゃない? だからお母さんにもなれないの。ここでこのまま死ぬしかない」
「先輩、凄い考えてるんすね……」
「当たり前じゃん。そう言うわけでここでは生殖活動禁止。まかり間違って生殖活動を行って、それで次の命ができてしまった時は、あたしは自害して果てるから」
「サムライみたいでカッコいいっすけど……それならあんまり俺の股間を挑発するようなカッコしないでください!」
ご尤もである。
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