第13話 科学部、ノーブラに反応する!
翌朝も快晴であった。朝から籠をひたすら編み続けている二号と、海水から塩を作り始めた教授を残し、金太と姐御は二人でベッド代わりになるシダの葉を林に採りに行った。だんだん息も合ってきて、やるべき仕事さえわかれば自ら率先してどんどん仕事をこなしていく。素晴らしいチームワークである。
教授は金盥に海水を汲み、そのまま鍋代わりにして下からガンガン火で温めて煮詰めている。たまにかき混ぜないといけないが、それ以外は少しくらい目を離しても大丈夫なので、その間に金太と姐御が採ってきたシダをベッド用と籠用に選別しているのである。そして籠に使う繊維部分は二号へ、それ以外は浜辺に広げて干していく。
さらに教授はこれと同時進行で、一夜干しにした魚を朝ご飯用に焼くのも忘れない。困ったときのブッシュクラフター、一家に一人ブッシュクラフターである。
また二人が戻ってきた。いくら中が空洞とは言え、流石に大量のシダを抱えて朝から五往復もすれば、姐御も金太も汗だくである。
「もー無理、休憩~!」
「お疲れー、二人ともちょっと休みなー」
「暑い。海入ってくるー」
「俺もー」
二人とも制服を脱ぎ散らかして、下着だけで海に飛び込んでいく。
「金太、少し耐性ができたようですね」
「そだねー。鼻血出さなくなったねー」
「ビキニと大して変わりませんからね」
しばらくして戻ってきた姐御に、教授が金盥の中身をかき混ぜながら声をかけた。
「姐御先輩、濡れた状態で重みがかかると、ブラジャーが伸びて早く傷んでしまいますよ。これが使えなくなったら万年ノーブラということになりますが」
「のおおおおぉぉぉぉぉっ!」
鼻血の噴射により、金太が彼方へ飛んでいく姿は、あたかも流れ星のようである。
「えー、それは困る。こんなデカいのが垂れたら、邪魔で邪魔でしょうがない! 今度から海に入るときはノーブラで入ろっと! それより、いい匂いがしてるね~、何か焼いてたの?」
「ああ、ちょうど魚を焼いてました。コエラカントゥスの一夜干しステーキも鉄板の方にあります。姐御先輩と金太から先にどうぞ」
「うん、ありがと。さっさと食べて、またシダ採りに行って来るね」
どうやらそのままの格好で食べるらしい。濡れた体で制服を着たら、制服まで濡れてしまうからこのままの方がいいのかもしれないが……。まあ、そのうちに二号も金太も慣れるであろう。慣れるといいな。慣れるのか?
「食事が済んだら、僕のリュックの中身の情報を全員で共有しましょう。僕一人がわかっているよりも、みんなが知っていた方が有効に活用できますから」
「そうね。教授のリュックって何が入ってるのか、実は凄い興味あったのよね」
「実験用器具しか入ってないですよ」
星になった金太が宇宙の彼方から戻ってきたところで、四人揃っての朝ご飯。流石に三日目ともなると、家族のようなノリになってくる。セレブ育ちのお坊ちゃま二号と地味に繊細な金太は相変わらず「コエラカントゥスは無理」と言って手を出さず、味覚音痴の姐御は「コエラカントゥスだったら死ぬまでずっと食べ続けても飽きない!」と大喜びで貪っている。教授も相変わらずブッシュクラフターの血がそうさせるのか、食べられるものはどんなに不味くてもありがたくいただくようである。
「ねー、この醤油も大事に使わないと、無くなったらもう終わりだね」
「そうだねー。大豆も無いし、あったとしてもこの時代に被子植物を繁殖させるわけにはいかないしねー」
「二号先輩、魚醤なんかはどうっすか?」
あの金太も、アカデミックな知識は皆無であるものの、何故かこんな知識だけは立派に持ち合わせているらしい。
「発酵食品だからねー、これから1年とか2年とか熟成させるー?」
「時間かかりすぎっすね」
「教授の作ってくれた塩だね、当面は。それにあたし、コエラカントゥスだったら味付け要らない」
三人が『マジか?』という顔をするが、姐御は上機嫌で気づかない。味覚音痴とはかくもありがたいものであったか。
「何かの記念日などにオウムガイのつぼ焼きをありがたくいただくなんてのはどうですか。誕生日のケーキのノリです」
「いいねー。特別メニューで醤油を使うんだねー」
「それにしても毎日毎日魚ばっかりってのも栄養が偏るわね。あたし午後からちょっと海に潜ってみる。あたしだったら現代の藻類に近いヤツ探せると思うから」
「オイラも行こうかー?」
「二号は籠編んで貰わないと。他の人にはできないから」
「僕も籠作り教えて貰いますよ。こう見えても手先は器用なんです」
誰が見ても一目瞭然である。
「じゃ、また金太と一緒ね」
「の、の、の、ノーブラですか?」
と言ってる先からもう鼻血を出している。金太の血液量は大丈夫なのか?
「仕方ありませんね。わかりました、僕が行きます。水中で鼻血は危険です。血小板が凝固するのを海水が阻止してしまいますから、金太では失血死してしまいます」
「いいなー、教授」
「俺も姐御先輩の裸見ても興奮しない体になりたい……」
「想像だけで鼻血出してんじゃん」
「僕は行きたくないんですから、二人ともとっとと悟りを開いてください。それより、皆さん食事は済みましたか? 僕のリュックの中身、そろそろ出してもいいですか」
「あ……忘れてたー」
こんなんで大丈夫なのか、科学部?