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第7話 科学部、食事する!

「まず、時代を確認しましょう。金太が採ってきた生き物から判断できますか?」

 食べられなさそうなものは海にリリースしたものの、食用になりそうなものは何かの巨大な植物の葉っぱの上に並べられている。

「そーだねー。金太が採ってきたものも悪くないけどねー。昨日コティロリンクスっぽいのがいたよねー? あれは古生代ペルム紀前期にいたヤツでねー、ペルム紀後期にはもう絶滅しちゃってるんだよねー」
「P-T境界ってやつね」

 解説しよう。
 P-T境界とは、約2億5100万年前の古生代最後のペルム紀 (Permian) と中生代最初の三畳紀 (Triassic) の境目から、それぞれの頭文字をとったものであり、史上最大級の大量絶滅が起こった時期とされる。種レベルでの絶滅率は90%以上とも言われている。以上!

「ペルム紀後期はねー、地球温暖化の影響で21世紀の地球よりも平均気温が10℃以上高かったはずだから、現在の気温から考えてペルム紀後期ってことは考えにくいよねー」
「そうね、植物分布から考えても前期だと思う」
「ということは、オイラたちは今、超大陸パンゲアに立ってるってことだねー」

 二号が感慨深げに古代のロマンに浸っている傍で、教授がアンモナイトの蠢く巨大な葉っぱを撫でながら、一人ブツブツ言っている。

「この葉っぱは並行脈が見えますから裸子植物ですよね? 古生代はシダ植物だけではないんですか?」
「そんなことないわよ。裸子植物も少しずつでき始めたころ。中生代まで行くとイチョウなんかも出てくるけど」
「これはコルダイテスだねー。30m級の凄いのがガンガン生えてたからねー。グロッソプテリスもあったしねー」

 解説しよう。
 コルダイテス、グロッソプテリスとは、ともに初期の裸子植物の一種である。裸子植物とは、種子植物の中でも子房を持たず胚珠が剥き出しになっているものを指す。以上!

「それよりコイツ、焼いて食べましょうよー、フツーに魚っぽくて旨そうっすよ」

 華麗にスルーされた解説君を放置して、金太が食べたそうなのは体長1mほどのコエラカントゥスである。先ほどから葉っぱの上でジタバタしている。これなら割と見慣れた感じもする。何しろ見た目はシーラカンスだ。というか、これを素手で獲って来たのか、金太!

「ちょっとあたしが捌くから待ってて。あ、でも万能ナイフじゃ小っちゃくて無理か」
「先輩こちらをお使いください」

 何故教授の謎リュックからはこんな物騒なものが出てくるのか、刃渡り20cmほどのギザ刃付きサバイバルナイフが出てきた。職務質問されたら一発でアウトな代物だ。

「これなら余裕で捌けそう。借りるねっ」

 語尾にハートを付けて言うようなセリフとも思えないが。

「心置きなくどうぞ。新潟燕の金物職人が作った一級品です。ダイヤモンドシャープナーもついてますから、ガンガン行けますよ。こちらで鉄板の準備をしておきます」
「あたしは勝手に楽しんでるから、そっちは勝手に食事続けてね」
「はいよー。サンキュー」

 ブッシュクラフターが生き生きしている。もちろん姐御もだが、こちらは解剖を楽しんでいるだけであろう。しかし、巨大なシーラカンスを解体しているすぐ横で食事など……彼らはできるらしい。ちょっと作者には想定外。無理。

「二号先輩、シーラカンスはコエラカントゥスの英語読みだという事でしたが」
「あー、うん、そうだねー。シーラカンス目には21世紀のシーラカンスの属するラティメリア属と、途中で絶滅したコエラカントゥス属があってねー、どっちもP-T境界を生き延びたんだけど、何故かコエラカントゥス属はジュラ紀後期で絶滅しちゃってるんだよねー。ここで会えてよかったねー」

 二号、感無量である。

「姐御先輩は絶滅する前に解剖できてラッキーでしたね」
「ああ、それだけどねー。コエラカントゥスってのはねー、コエラは中空、アカントゥスは脊柱を意味するんだよねー。背骨無いからー」
「背骨じゃないけど似たようなのがあるわよ?」
「脊柱に油脂が詰まってる筈だよー。肋骨も無いでしょー」

 とんでもないことを平然と言う部長である。魚類は脊椎動物ではないのか?

「作者、大丈夫ー? 脊索動物門は脊椎を持つものと、それに近縁な頭索動物と尾索動物の総称だよー」

 すいません、勉強不足でした。

「ほんと、肋骨無いよ! どうやって内臓とか筋肉支えてんの?」
「鱗だけだねー」
「なんかこのひれがさ、脚っぽい感じなんだよね。ああ、取れた。次はハラワタ抜きまーす!」

 いちいち実況中継しなくていい。というか、サバイバルナイフを逆手に持つと怖いから……。

「あん、もう、硬いなぁ。おりゃああ!」

 ぶしゃあああ! って血が出るんだな、まだ生きてるし。

「や~ん、血だらけ。うふっ」

 明らかに楽しんでいる。彼女だけは敵に回したくない。『姐御に刃物』だ。そんなことを言ったらもれなくミンチにされるだろう。
 ある程度のサイズに切り分けると、彼女は海でザバザバとワイルドに洗い、さらに細かく(と言ってもステーキレベルのサイズだが)切って鉄板の上にガンガン並べた。

「楽しみねー、コエラカントゥスのステーキ!」
「俺は姐御先輩の『五~六人殺してきました』な格好を見ながら食えるほどワイルドじゃないっす」
「もう、わがままなんだから。しょうがないわね、洗って来るか」
「着替え、無いよねー?」
「僕の白衣を着てください」
「ありがと」

 どうする気なのかと固唾を飲んで見守る三人の前で、姐御はおもむろに制服を脱ぎ始めた!

「あーあーあー! ストップストップ! 金太が失血死しちゃうよー。ほら金太もそっち見るなってー」
「どうせしばらく一緒に居るんだもん、そのうち見飽きるわよ」

 絶対にそれはない。と作者が言い切る間もなく、彼女は下着だけになり、制服を抱いて海に向かってしまった。
 自らの鼻血の反作用によって後ろに吹っ飛んだ金太のダイイングメッセージが、二号の元に辛うじて届いた。

「く……黒ブラ! しかも紐パン!」



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